モンスーン・アジアデルタ地帯における水資源開発と稲作発展の可能性
大阪学院大学経済学部
教授 福井 清一
1 はじめに
世界は、今後急速に増え続ける人口を、限られた資源で養う必要がある。食糧需給については、米ワールド・ウオッチ研究所のレスター・ブラウン所長のように食糧需給の逼迫を予想する悲観論から、国際食糧政策研究所(IFPRI)のように、単位収量増加により供給余力は充分という楽観論まで様々である。ただ、青山学院大学の速水教授が指摘されるように、80年代に入ってから穀物価格は趨勢的に下がり、食糧問題に対する関心も低下し、食糧生産に関する研究開発投資が停滞する一方で、高収量品種の導入による生産増加も頭打ちになりつつあることから、世界的な食糧危機の可能性が高まっていることも事実である。注1)
我が国も含まれるモンスーン・アジアでは、食糧と言えば、米であるが、米についても将来の需給についての見方は分かれている。米国アーカンソー大学グループの予測結果は楽観論を支持しているし、国際稲作研究所(IRRI)社会科学部門の主任である、M.Hossain博士の個人的見解は、米輸出国の供給制約を懸念し、むしろ悲観的である。注2)このように、米需給の将来については、不確定要素が多く、的確にそれを予測することが困難な状況にある中で、順調な経済発展を遂げてきたアジアの2大米輸出国、タイ・ベトナムの米輸出拡大に黄信号が、灯り始めている。その一方で、潜在供給能力はこの両国を上回ると言われながら、これまで停滞を続けてきたミャンマーの米生産拡大に期待が高まっている。
本稿では、アジアにおける米の輸出基地と位置づけられる、東南アジア3大デルタにおける米生産の現況を紹介し、稲作用水資源開発の可能性と稲作発展の方向について検討したい。