郊外だけのスケールに着目するのではなくよリマクロの立場から見ると、国際食糧政策研究所(IFPRI)のマーク・ローズグラント氏、ルース・メインツェン・ディック氏のように将来の世界の穀物と食糧供給を比較的楽観的に考えている人々でさえも、この20年の間に環太平洋地域における灌漑面積の純増加がスローダウンしていることに懸念を表明している。彼らはこのスローダウンの原因を1980年代に新たなプロジェクトに対する公的支出が大幅に減ったことにより、新しい土地を灌漑するための実資本費用が増加したこととしている19。
このことには驚き過ぎることはないほどに多くの理由がある。まず第一に、灌漑面積の測定値は実際、灌漑の品質についてはあまり触れていない。
既存の灌漑(未灌漑)地の水供給条件などの改善は灌漑地を増やすことよりも、総計でみた収穫高に対してはるかに大きな影響を与える。確かに、全体的な湛概面積の数字はそれほど変化していにもかかわらず1970年代後半から中国において穀物高は著しい増加を続けている20。
さらに、概してIFPRI分析が言及した資本費用の増加(20-25年の間にインドネシアで100%以上、フィリピンで50%、タイで40%)は、同じ時間枠で一人当たりの所得の増加と比較するとまったくささやかなものである。この問題は資金的にまかなえるかということではなく、他に多くの要因がある。
それらの一つとしては、予算が次第に赤字、不足に膨れ上がり、プロジェクトの受益者たちがそのコストを支払うべきであるという資金提供者たちの声の高まりに押され、政府が公的補助金を継続することに難色を示していることがあげられる。各地のプロジェクトで農業への水の一般的な価格を低く、たとえば運営と保守費用以下に抑えられるとしても、より完全な費用回収に基づいた新たなプロジェクトでは、農民たちに今まで支払ってきたものとは桁違いの料金を要求することになる。このために政治的に実行不可能となる。
もう一つの問題は縮小傾向にある公共工事投資の予算の中で、保全が不十分な古いプロジェクトの継ぎ当てに充当しなければならない部分が増えていることである。中国で毎年灌漑地でなくなっていく土地は、都市-工業化の進出によるよりもプロジェクトの廃退によるものの方が多い。