3.4.5 運航採算への諸影響
3.4.4節では、船価、船費、砕氷船傭船費等、これまでの実績を基にして仮定したパラメタを用いた評価計算を行った。その結果、船価増大による資本費の増分は航海数が増えることによってほぼ回収できるという結果を得た。3.4.4節では例として氷海用バルクキャリヤーの船価が従来タイプのバルクキャリヤーの25%増しとしたが、輸送コスト全体に占める資本費の割合は高く、船価の動きによっては今回の結果は大きく変わると考えられる。 また、計画船-NSR経由における砕氷船傭船費と従来船-SUEZ経由におけるSUEZ運河通行費は船価に次いで採算に大きく影響し、これらの差が縮まれば計画船のNSR運航による輸送競争力は高くなると予想された。速力についても、1往復の航海数増を狙って平水中計画速力を17 knotsに設定したが、この速力がコストに対して定量的に有意であるか確認しておく必要がある。
ここでは以上の輸送コストに影響を及ぼすと考えられるパラメターを変化させた評価を行い、それらの影響の度合いを調べた。
(1)船速の影響
図3.4.3に計画船の平水中航海速力を、15、16、17、18、19 knotsに変化させた時の輸送トン当たりのコストの変化を示す。ここで、航行中の主機の馬力は船速に応じて変化させているが、燃費率は変わらないと仮定した。また、18knots以上では実質的には1ランク上の主機が投入されると予想されたが、主機変更による船価増大は考えていない。
計画船の速力が仮に船型の変更無しに19knotsまで上げられたとして、3.4.4で設定した17knotsの速力でのコスト1,987円/tonが1,955円/tonと約30円減少するが、従来船-SUEZ経由との比率で見れば、3%の差が1.5%の差に縮まる程度である。一方年間輸送量は、図3.4.4に示すように、従来船-SUEZ経由との比でさらに約7%の増加となる。
以上のように、平水中航海速力の増加は比例的に年間輸送量を増加させるが、輸送コストにはあまり大きな改善が見られない。実際には、主機の変更による船価アップがあり、輸送コスト上のメリットは上記の値よりは小さくなる。また、主機の配置上の問題もあることから主機変更をともなう船速増加はあまり現実的でない。