参考資料
1.船体着氷のメカニズム 補遺
(1)しぶきと着氷量の関係
加藤8)は着氷量を統計的手法(要因分析)で解析しているが、しぶき量の因子として、相対風向・相対風速・波浪階級・船速をあげ、着氷量としてしぶき量・船速・気温をあげている。
L.Makkonen6)は海洋構造物における着氷の形成に関する報告書の中で、海水の飛翔によって発生した水滴が冷やされ、対象物にぶつかるとき、着氷が形成されるとしている。霧が大気中で氷結したり、雨や雪が凍結することも着氷の原因であるが、船の場合は海上の着氷事故の約90%が波しぶきによって引き起こされると述べている。
荒天時に船が引き起こす海水のしぶきを主因とし、これが船体に付着したときの外界の気温に関係して着氷が生じるとする点で、すべての文献は一致する。
一方、世界気象機関(WMO)の技術指針では、船体着氷の強度Iは、気温Ta、水温Tw、対船風速Waとすると
I=f (Ta・Tw・Wa)
で求められるとしている4)。
このことは、気温と対船風速の他に、水温の因子が着氷に影響するということを示している。
しかし、沢田9)は着氷が成長するための気象・海象条件の中で水温について次のように述べている。
「着氷が発生するための水温条件については、現在(1973年)、国際的にも、確たる定説はない。しかし、諸外国の文献を総合すると、船舶の航行に支障を与えるほどの強い着氷は、おおむね水温5℃以下の冷たい海域に限られるとされている。
1972年に、カーフェリー“すずらん丸”が激しい着氷に見舞われたが、このときの水温が13〜14℃の暖水塊上であったことを考えると、着氷に果たす水温の影響は極めて小さいことが伺える。このことから、上式は、
I=f (Ta・Va)
のように簡略化できる。ただし、Vaは船速である。」
(2)風と波浪中のしぶき量
着氷の主因となる海水のしぶき(波しぶき)について、その発生源と量を風及び波浪条件との関係でみることにする。
日本海難防止協会は、船体にかかるしぶき量の計測を96GT型鮭鱒流し網漁船の2mモデルによって水槽試験を行った。波長の影響を調べた結果、波長λと船長Lの比λ/Lが1.5〜2.0でしぶき量が多く、それより波長が長くても短くてもしぶき量は減少するとしている。波高の影響では、波高が高くなるとしぶき量が急激に増え、上がる高さも高くなる。しかも、しぶき量は波高に対して比例して増加するのではなく、ある波高を越えると急激に増加するとしている。