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8.5.3 システムの国内外での実施例

循環式陸上養殖法と言ってもその方法や技術の導入方法は産業背景によって千差満別である。1995年から1997年にかけての、北欧を中心とした視察において検分した結果でもそのことを裏付けることとなった。まずノルウェーであるが、アトランティックサーモンの養殖を主とする循環式陸上養殖は、前浜から海水を吸入し、陸上のシステムを循環した後、順次排出される点では、むしろ日本の掛け流し式に近い考え方である。ただし、システム内で人工水流を起こすことで、魚の肉質を改善する試みや、自動給仕や中央管理システムによって人件費の削減を図る点、さらに糞や残餌の回収装置により排水の水質改良を考慮している。

デンマークのDIAT社におけるウナギ養殖は、排水基準を最大のテーマとして取り組んでおり、糞や残飯の回収にとどまらず、バイオ技術による溶存態窒素の硝化までの装置を探り入れている。十分な酸素を供給するために液体酸素を使用し、中央管理システムや警報システムも導入している。ウナギ年産1,000トンを計画中とのことである。

ウナギの循環式陸上養殖法をハードとソフト両面で確立したと自負しているのが、オランダのHesy社である。Fish farming internationalニュースによると、同社は、ドイツ等への新規参入業者に対して、養殖による最終利益(約297円/kg)をギャランティーすると言ってシステムを販売しているらしい。ウナギ養殖は淡水或いは薄い塩分の水(1〜2%)を使用する程度であり、海産魚よりはシステム設計が容易であること、さらに、ウナギ自体が水質に対する許容量が大きいということもあって、循環式陸上養殖法が最も発達している。

 

フランスのADRIENグループの構成員であるフランスターボット社はヨーロッパヒラメ(turbot)600トンの生産を目標にしているが、稚魚は完全循環方式で養殖し、成魚になると掛け流し方式を採用している。どちらの場合でも溶存酸素濃度の維持に最も注意をはらっており、液体酸素を使用して酸素補給をしている。

台湾のマグネシアコーポレーションは、デンマークの循環式陸上養殖技術をいち早く導入し、グループを合わせるとヨーロッパウナギを毎年700トン以上生産している。水温を25℃に維持することで、ウナギの成長を速め、ヨーロッパから輸入した体重8gのクロコを養成6ヶ月からサイズ150gで出荷を開始し、平均12ヶ月で出荷を終える体制を組んでいる。オゾン殺菌以外のあらゆるシステムを装備し、年間50トン生産するタイプの装置一式で約8千万円程度になるらしい。

 

釜石市の(株)サンロックは簡易な循環方式でチョウザメの陸上養殖を行っている。淡水を使用し、40トンの水槽に対して約80トンの水を循環させる。換水率は5%で、飼育密度は45〜50kg/m3。ドイツ製のトライアングルフィルターにより40ミクロンまでの懸濁物を除去し、特殊なモジュールを詰めた濾過槽で硝化と脱窒を行う。あとは簡単な曝気装置があるだけで、トライアングルフィルターの購入に200万円程度を費やしたが、あとは全て手製のものだそうだが、チョウザメを2.5kg程度にまで養成する初期育成であるので、この程度のシステムでも十分であるとの現場の話であった。以上の様に、ー口に循環式陸上養殖と言っても、対象とする魚種、養成の段階、立地条件によってやり方はまちまちである。日本の場合は、高いエネルギー代をいかに低く抑え、速い成長性を得、かつ、クリーンな排水を保つことができるかが、循環式陸上養殖法の最大の課題であろう。

 

 

 

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