討論
ミアーンズ : 鳥、哺乳類、魚等の海洋生物に対する損傷、被害はどのくらいだったのでしょうか。
工藤 : 2月中旬、即ち1ヵ月半の間に我々が保護した鳥は1,269羽で、どのくらい死んだ鳥がいるか、全体は把握しておりません。
シィーヴェ : 先程将来は衛星を使った漂流油についての情報収集システムがほしいとおっしゃいましたが、ナホトカ号の場合はどうやって漂流油が観察されたのでしょうか。
工藤 : もちろんある短い期間、人工衛星でも観察をしましたが、殆どは我々が保有しているヘリコプター、あるいは海上自衛隊のP3C等によって上空から昼間に観察したものを前日夕方までにまとめて、どの辺に漂流分布するかの予測を立てました。
カナダのレーダーサット等により映像が撮られているのは知っておりました。ただ、漂流分布が非常に広範囲なので予算の問題もあり、人工衛星を常時は使用しませんでした。
レッサード : スライドを拝見して、特に波浪が高いときには分散処理剤を船からはなかなか散布しにくいということが見て取れましたが、飛行機を使って散布をするといったような態勢の強化は考えていらっしゃいますか。
工藤 : ヘリコプターにより、沿岸のあまり近くないところで数日間、分散処理剤を散布しましたが、今回の油の性質を見ると、あまりこれが効果がないだろうということが分かりましたし、やはりヘリコプターで散布するのは限度があるので、途中から殆どヘリコプターによる分散処理剤の散布は行っておりません。湧出地点で大量の流出が確認されたときに、若干の分散処理剤を撒きました。
元良 : 日本でも分散処理剤の事前承認を取るような制度を設けるべきだということは、我々も真剣に考えなくてはいけませんが、ナホトカ号事件のときに、わりに早い段階で分散処理剤を使用しましたが、どの様にしてそれが使えるようになったのでしょうか。
工藤 : 今回は外洋で船体が折損したので、油が漂着するまでにだいぷ時間がありました。具体的には5日以上の時間があったのです。この期間、事故後2日目になりますが、1月3日に各白治体の担当の課を通じて、それぞれの漁業協同組合に了解を得て、分散処理剤の散布ができるという承諾を得ておりました。実質、今回のナホトカ号については非常に早い段階で自治体の了解が得られました。
元良 : 東京湾のダイヤモンド・グレース号の際に、非常に早い段階で分散処理剤が使われて、そのせいもあって殆ど海岸に油汚染が起きませんでしたが、これもどうして散布できたのでしょうか。
工藤 : 私は東京湾の事故については責任を持って回答できませんが、情報によると、最近の漁業関係者の方は油の性状を一般的によく承知していて、原油に関しては初期にかなり分散処理剤が有効だということを理解していらっしゃいます。了解を得て、最初の3日ぐらいで殆ど遅れなく処理をすることができました。ただ、3日、4日たってからの使用については、やはりあまり散布しないでほしいという要望があったそうです。
元良 : 今のような話を伺うと、日本でも事前承認を取るという可能性があるのでしょうか。
工藤 : 東京湾の場合と、第八管区では相違がありますし、それぞれの県によっていろいろな意見が出てくると思います。今のところ簡単に取れるというような見通しはまだ立てておりません。