5. 終の棲家に対する本人たちの評価
生活の質を高める配慮は、設計の内容だけでなく、設計プロセスにも反映されています。各居室の照明器具をはじめとして、壁紙・カーテン・家具などはすべて自分自身で決めることにしました。平成2(1990)年4月1日オープンの1ヶ月後の調査の際にも各人が自分の部屋を自慢して見せたがるなど大変好評でした。ただし八畳間をバリアフリー対応のままに仕上げていたため、そこに住む男性には、「なぜ自分の部屋だけ狭いのか」と不評でした。四畳の畳部分だけを生活空間としていたためです。その後改築したので、現在は満足しています。
各居室を個室にすることは生活の質を重視する基本方針からして当然のことでした。しかしそれに加えて、入居予定の5名が既に別のグループホームで一緒に生活しており、しかも2人部屋で生活していた2組の人たちがたいへん円満に生活しているという現状をいかに受け止めるかが検討されました。そこで急激な変化がストレスにならないように、各ペアの個室の間の障壁を一部あるいはすべて襖としました。結果として、1組は配慮通り、襖を開放して一室として住み始め、数年後に襖を閉じて個室として住むようになりました。他の1組は、引っ越し当日に襖の前にタンスを置き、2人の仲よりもプライバシーを優先することを行動で示しました。
興味深いのは、便所に関する棲み分けです。これは引っ越しから1週間もたたないうちに固まったようです。居室Aに住む男性は、計画側の予測に反してバリアフリー便所を常用するようになりました。できるできないという判断を現状から下すことの難しさを示唆しています。居室Cに住む重度の男性もバリアフリー便所を常用していました。居室Bに住む若い男性は、バリアフリー便所を利用したい気持ちをもちながら、既に2人が常用していること、また自分が排泄に時間を要することから、洋式便所を選択しています。また居室DおよびEに住む2人の女性は、年配の方が和式、もう一方が洋式を選択しています。こんなに早く棲み分けが固まった背景には、メンバーが既に気心が知れた仲であったことが反映していると思われます。
6. 現在の緑ヶ丘住宅
現在の各人の負担は、月額11,000円。国のグループホーム制度にのせたために、認可上の定員は4名ですが、実員は、世話人室を居室Fとしたため、6名です。男女が混住するという方針は変わっていません。また居室Aに開設以来生活している男性は、現在74歳。乗馬療法などの積極的な支援の効果もあるのか、未だに車椅子を必要とせず元気な毎日を送っています。