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「自発性」が個々人に要求されるようになりました。その「自発性」が自分のためのみならず社会と結びついたとき、つまり自分のやっていることが社会とどうつながっているかがわかったとき、人は生き生きとしてくるのではないでしょうか。

――個々人に自発性が育ってきているということですね。

そうですね。個の存在としての責任や義務が問われる中、自発的な意思、つまりボランタリーな精神が伸びてきていると思います。

話は少しはずれますが、その現象は、社会の縮図である学校に見ることができるのではないでしょうか。「交わっている」「PHSを持たない」などといったほんの小さな「違い」が原因となり、いじめが多く起こっています。こうした「違い」を持つ生徒は、主体的な個が育ってきている表れでしょう。いじめる側は、彼らに自主性を認め、その存在を恐れているからこそ圧力を加えるのです。

 

――討論では、二一世紀に向かって「和魂」は捨てるのかどうかといった議論がなされました。「グローバル・スタンダードに合わせるとなると、ともすれば自分を見失ってしまうことになる。日本人の個性を歪めることなく世界に認識させればよいのでは」との意見もありました。これに対し星野世話人は、「フィランソロピーを育てるために今求められているのは、和魂ではなく地球魂である」と発言なさいましたが……。

地球魂というのは、地球に生きている人間として一つの価値観だけにとらわれず、国境や国家を超えたところで互いに認め合う心のことです。

別の機会に韓国の方がおっしゃっていた話を思い出したんですが、かつて韓国では銅のように磨くと光るもののほうが尊重されており、青磁や白磁などをつくる職人は社会的にあまり認められていなかったそうです。彼らは渡来人として日本にわたり、焼き物の文化を伝えた。はるか後年、それは芸術にまで仕上がりました。今や韓国の上流階級の人々は、日本に来たときに磁器を買って帰るそうです。日本で育った焼き物文化を、非常に認めているのです。

このように国境や国家を超えて多様性を認め合うことは、「この世界をどうしたら少しでもよくできるか」というフィランソロピーの考えに結びついていくと考えます。ですから、和魂、すなわち日本らしさを持たなければならない、という考えとは少し異なると思っています。自国の優越性を示す道具として固有の文化を用い、そのために自らの文化を保持するべきだという強制は危険なのです。

――会議の中で、現代日本はNGO(市民の海外協力団体。非政府組織)の受け入れシステムが充実していないというような発言がありました。これについてJVC(日本国際ボランティアセンター)創設者のお立場から一言。

受け入れシステムとは少し異なるかもしれませんが、企業からの寄付が集めにくいと感じることがありました。現在、国際協力をしているNGOは国内に約二七〇ありますが、フィランソロピーをしたい企業側には、その中のどれかに寄付をして日本のNGOを育てるという視点はあまりないようです。企業自ら財団をつくってそこに資金を投入し、もう一つのODAのような活動を展開しているというのが現状です。

NGO側にも問題がないとは言えません。かつて私がJVCの事務局長を一○年ほど勤めていました頃は、自分たちの理念を否定することにならない程度の違いは受け入れていましたので、かなり国連から寄付がありました。しかし今は理念が一致しなければ寄付を受け入れなくなり、寄付額は半減しています。フィランソロピーをしたい側の意向も汲み取り、NGOももう少し柔軟な態度を取るようにしたほうがよいのではないでしょうか。

――「日本の民主主義を発展させていくためには、NPO(多様な公益活動を行う民間非営利団体)を政府に対抗できるセクターとして育てていくべきだ」といった前向きな意見が出されました。非営利分野からの立場として、いかがお考えですか。

対抗できるようなセクターとして認められるようになるまでには、日本では残念ながらまだ時間を要するようです。企業や行政の方と話していると、NPOの存在を認めながらも、対等な存在として認識するまでには至っていないことを感じます。主役はあくまで企業や行政セクターであり、NPOはそれを補完する役割にすぎないという考えを持っているのではないでしょうか。彼らにとって「良き市民」とは競争力を持たない存在を指しているようです。私たちNPOはこれからも地道に活動の成果をあげ、相手にNPOの存在を理解してもらう努力が必要だと思います。

――最後に、本フォーラムは来年度集大成を迎えるわけですが、会議に期待する点、会議の着地点についてご発言をお願いいたします。

「二一世紀の日本でフィランソロピー、あるいはNPOを活性化させていくためにはどうすればよいか」ということに着地点を設定するならば、実際にNPOの活動者の話を聞き、現場で″障害″となっている問題を洗い出していく作業をしてはどうでしょうか。

NPOと社会の間には、「資金が集まらない現状とその理由」などといった問題もあるでしょうし、NPO内部には「組織のマネジメント号「メンバーが自分の行為を自己満足的にとらえてしまう」といった問題点もあるでしょう。

NPO法が成立し、いよいよNPOも一つの組織として社会的認知を得るための第一歩を踏み出しました。そのためには、情報開示をきちんと行うなど組織をより健全にしていかなければなりません。そうすることで、はじめて支援の輪も広がっていくと思います。

 

 

 

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