『アア コリャコリャ 小萩や小萩や 御前様に粗相の無いように頼むよ 頼みました』
と 言え捨てて 次の一間へ下がらるる
後にも残る姫君は 差しうつむいていたりしが 光重公の御覧じて

『矢萩小萩とや 苦しうない 近う寄って一つ酌いたせよ』

と 仰せに小萩は さしあたり 長柄の銚子を携えて お側近く寄り添って なみなみ酌を いたされて 元の末間に下がられる光重受けたる杯を 半ばおされて台にのせ

『アイヤ それなる小萩とや その方如何なる子細あってこの屋に買われ 常陸か国を名乗る小萩を申すや』

訊ねに小萩は顔を上げ 『コレハコレハ お殿さまには変わった事のお訊ねに預かります 小萩は主命にまかせ 御酒のお酌に相出ましたけれど 我が身の上や懺悔話 または 国物語には相出ませぬ』
もはや お暇いたさん 立たんとなせば 光重 姫の裾を取って控え

『ヤレ待たれよ小萩 成程成程 ひとの先祖を問うときは 我が古を語れとあるそれに何ぞや 我がものならず 武士が身の上問い仕方 光重一つの誤り さりながら そちに見知る名有り コリャ これに見覚えあらんや』
と 懐中よりも以前の木札 小萩が前へ
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