熊本は自然に恵まれている。阿蘇という火山地帯がある。しかし阿蘇火山地帯に行くには渋滞でどうにもならない。それから熊本空港から市内まで何もない。バス以外には何もないのです。タクシーで行って大体1時間近くかかる。交通のアクセスが非常に悪い。だからどういう話題性をつくるのか、どういう将来像をつくるのかというのは熊本にとって問題だと私は申し上げたのです。
ですから、旅行にはいくつかの要素があるということを言われていました。その要素はそれでいろいろあるわけですが、しかし旅行へ行く普通の理由ののほかに、例えば風景の美観がある、美食がある、おいしいものがある。しかしそれだけではだめであって、話題性というものがないと観光は成立しないと思います。話題性をつくりだす。人工的なものです。私は観光というのはやはり人工的なものだろうと思います。観光そのものが初めから非常に人工的につくりだされた。
世界最初のセット旅行はトーマス・クックというイギリス人の牧師さんが始めたものです。後にトーマス・クック旅行社をつくった人です。これは最初に禁酒大会へ行きたい人がいるのだけれども、禁酒大会に行っても参加できるかどうか、行き帰りのキップはどうなるか、向こうでの宿泊先はどうなるか、そういうものを全部セットにして売り出したのがトーマス・クックであった。それからは彼は非常に人工的にいろいろなスイス旅行だとか、どんどん組み込んでいった。しかもこのツアーというものができるにしたがって、今まで旅行できなかった女性たちがこれに参加することになった。女性たちからの感謝状がトーマス・クックの伝記には多数紹介されていますが、そういう具合に旅行というのはもともとつくりだすものであるという意識がないとだめなのです。
しかしこれは必ずしもお金を伴うものではなくて、お金はなくてもアイデアで勝負というのがある。私が旅行の企画で一番感心したのは、「寒山寺で除夜の鐘を聞く」というツアーなんです。寒山寺は非常に有名な上海の近くの蘇州にあるお寺です。なぜ有名かというと、漢詩などに読まれていて、寒山寺の鐘の音は海を伝わってくる客船の上で聞くのが一番いいというような唐詩がある。その寒山寺で除夜の鐘を聞いたらどうかというツアーを某旅行会社が売り出した。
これこそフィクションです。まさにクリエイトしたものである。なぜかと言ったら、大体大晦日とか除夜の鐘というのはアジア広しといえども日本にしかない。 1月1日に新年を祝うのはアジアでも日本しかない。言い換えれば中華系の人、華人にとって正月とは旧暦の正月であって決して1月1日ではないのです。ですけれどもそこで旅行社が1月1日の前の日、31日の大晦日に日本では108つの除夜の鐘をつく習慣がある、それでは寒山寺で除夜の鐘を聞くというアイデアはどうだろうと、それで寒山寺と交渉をして、蘇州市とも交渉をして、30日ぐらいから出掛けていって、31日の昼間は広州市の学童の学芸会みたいなものを見て時間をつぶして、夜に除夜の鐘を聞くと、今やこれは大変なツアーになった。最近は知りませんけれども、とにかく何千人もの日本人がバスを連ねて寒山寺に行って除夜の鐘を聞く。ところが日本人の心情としては、あの有名な寒山寺で除夜の鐘を聞きたいと、たとえそれが嘘であっても、中国人の習慣になくてもそれを聞きたいという気持ちがある。これはまさにクリエイトしたツアーだと思います。
何かおかしいのは、この日本人がバスを下りてぞろぞろ寒山寺に行くわけですが、周りに中国人がワーツと座り込んで見ている。日本人を見物に来る。彼らは暇なわけ