9 消防活動の現場から-消防活動にあたった隊員たちの手記-
消防活動にあたった隊員たちの手記を見てみよう。
(神戸市消防局「阪神・淡路大震災 神戸市域における消防活動の記録」)
震災時の情報収集
神戸市消防局司令課 消防司令 後藤 陽
その時、管制室の中は騒然としていた。サイレンやシステム警報音が鳴り響き、119番着信ランプはほとんどすべて点灯、着信音も鳴りやまない。OA機器や電話機が転落し、ファックスも倒れている。しかし、幸い防災情報システムの機能は失われなかった。
地震発生後1時間の受信件数は500件近かった。これは、昨年の1日平均を大きく上回る。通報内容はほとんどが家屋倒壊による生き埋め、次いでガス漏れである。火災通報は意外と少ない。それでも市内の広範囲に被害が発生していることは容易に理解できる。
そんな中、長田本署から無線通信が飛び込んできた。火災発生の第一報である。続いて、隣接する兵庫、須磨のほか、灘管内でも火災発生の無線通信が入る。
同時多発火災、最悪の事態である。そこで、非常招集の発令に続いて「災害多発時の運用マニュアル」への切り換えを決意する。これに伴い、管制室は本部機能としての業務を遂行できる。先ず被害状況の把握に努めた。
当初は監視テレビがダウンしており、テレビ放送も受信不能で市内全域の災害状況がつかめず苦労した。携帯ラジオが唯一の情報源であった。そこで、市役所1号館の24階展望室への偵察隊の派遣を思いつく。それによると市内で20数か所の炎上火災が発生していることがわかった。間もなく中央監視テレビが復旧する。赤外線カメラにより、市街地で25か所の炎上火災が確認できる。
各署からの報告のほか、続々と参集してくる職員からも市内の被害状況を収集した。
これらの情報から、最重点防御火災を長田管内と決定し、北、西及び垂水消防署から部隊を臨時編成し長田に投入した。
しかし、監視カメラの情報だけでは倒壊家屋の状況はわからない。これらの全容がつかめたのは消防ヘリが飛んでからである。かつてない規模の広域消防応援と自衛隊の要請が決断されたのはこの直後である。
今回の震災により、消防力の絶対的な劣勢と水利の壊滅という悪条件は言うに及ばないが、このような大災害時にはいかに情報の把握が難しく、また防御活動にそれが不可欠であるかを改めて知らされた思いがする。
今後、ハ―ド、ソフト両面から十分な対策を考えていく必要があると考える。
1.17終息のない戦い
神戸市長団消防署 消防司令 鍵本 敦
「ドーン、ガタ、ガタ、 ・・」大きな音と突き上げるような激しい揺れが待機室を襲った。地震だ!それも、とてつもなく大きい。全員出動だ!消防車を出せ!揺れがおさまった時、私はこう叫んだ。情報通信室へ駆け降り、「全員非常招集だ」と指示。その時、すでに視界の中には赤い炎が飛び込んできた。「川西通で炎上火災発生。」第1覚知の火災である。ガレージを出ると大道通でも続発炎上火災発生。部隊は分散して出動した。現場到着後、予測もしないハプニングが待っていた。消火栓が断水しているのだ。慌てて、防火水槽への部署替えを指示するが、火災に対処するだけの水源にはなり得ない。
また、一方で「子供が、母が・・、瓦礫の下に・・」助けを求める声が次々に飛んでくる。我々だけでは全く手が足りない。本部へ必死の思いで応援要請をするが、本部からは「長田管内は長田の部隊で対処せよ」との返答。全市で同時多発的に災害が起こっているのだ。現場の中隊長として、一瞬、頭の中が真っ白になった。
神戸消防の火災戦闘は消火栓に絶対の信頼を置いてしいた。それが、今は全く機能しない。あたりを見渡すだけ