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まひるのほし(35ミリカラー/1時間33分/シグロ作品)

 

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真昼の天空にも、燦然と輝く星があるという。見えなかった真昼の星たちが、それぞれの座標で、いまゆっくりとまたたきはじめた。

 

(解説)

●映画に登場するのは7人のアーティストたち。彼らは、知的障害者と呼ばれる人たちでもある。7人の創作活動とそれを支えている暮らしの断片を見つめていると、アートの貌(かたち)がほの見えてくる。彼らのアートの活動を至近距離からねらい続けるカメラの力だ。

●ダウン症の舛次崇(しゅうじたかし)君は、武庫川すずかけ作業所の絵画教室で絵を描いている。教室の主催者、はたよしこさんとの精神の共同作業の現場に映画は踏み込み、芸術の誕生に立ち会うことになる。シュウちゃんが描きためた絵は「幸福な植物たち」と命名され、はじめての個展が実現した。

●信楽青年寮の伊藤喜彦さんは63才。信楽が窯業の町であったことから、ヨシヒコさんは陶器作りに携わり粘土と友達になった「ナサケナイ」が彼の口グセだ。彼の耳にはかつて自分に向けて発せられたその言葉が何万回もこだましているのかもしれない。たたかれたり、ちぎれたりしながら形を変える粘土に向かって「ナサケナイ」を連発するヨシヒコさん。秋も深まったある日、野焼きの火に焼かれてヨシヒコさんのオブジェは「人間独特の顔」になった。

●平塚市に住む西尾繁君、通称シゲちゃんはとにかく若い女性にかまって欲しいのだ。シゲちゃんのそのくるおしいほどの想いを文字にしたため、書きためることを勧めた工房絵の関根幹司さん。「スクール水着」「シースル水着」などの文字の書かれたカードが集まり、東京原宿の画廊で作品になった。シゲちゃんの現代アートには可笑しさの中に青春の哀しさが見事に表現されている。父子二人の暮らしと湘南の海での青春の咆哮がシゲちゃんの心を伝えてくれる。

●すずかけ作業所の富塚くんやユキエちゃん、信楽青年寮のマッちゃん、そして工房絵の川村紀子さん、7人のアーティストの世界を旅しながら、映画はゆっくりと自由になってゆく。

 

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気持ちと心のパッチワーク

監督 佐藤 真

口に出したとたん嘘っぽく思えたり、言葉ではとても表せない気持ちというものがある。ある事情から、自分の気持ちを表現しない人もいる。でも、その中の多くの人は、絵や彫刻でとんでもなく深い何かを表現している。その創作行為を通じて言葉にできない気持ちや心を描けないかと夢想した。「知的障害者の優れた作品紹介」というアートオリンピックの映画にだけはしたくないと心に決めた。

ところが、撮っていくうちに肝心のアートとは何かということが訳分からなくなってきた。色の洪水や意味不明の土の固まり、落書きやメモ、はてはただの叫び声や沈黙までがアー卜であると本当に思えてきた。シゲちゃんの現代ア―卜に出会って、私の混迷は更に極まった。これでは、何をやってもアートだし、何もしなくてもアーティストになれる。

袋小路に陥ったわりには、フィルムはどんどん廻っていった。あとはヤケのヤンパチ、パッチワークである。見たこと、感心した話、間こえる物音、好きな作品、それらを切り貼りして、作っては壊し、組み上げては崩しをくり返しながら、何か別次元のものにならないかとアレコレ考えた。

完成したこのコラージュ映画は、たしかに私のある意図の下に編集してある。だが、その意図も、なぜこうなったかの理由も、もうすっかり忘れてしまったし、とても言葉で表せるものではない。

 

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