は じ め に
本報告書は財団法人日本船舶振興会の平成9年度補助金事業として実施した「高密度輸送の快適化の研究」事業についてまとめたものである。
従来から大都市圏におけるラッシュ時の車内混雑の緩和と列車遅延の防止を目的として、車両面では、編成の長大化や、多扉化、ワイド扉化など、信号設備面では多現示化など、さまざまな改良がなされてきた。これらの改良はそれぞれ効果をあげてきたが、現在でもラッシュ時には超満員の車両が存在したり、駅間で列車が停止するなど改善の余地が残されている。従来の取り組みは輸送力の増強を図るためのものが多く、輸送力と旅客需要の均衡に着目した試みはあまりなされていなかった。本研究では、従来比較的着目されていなかった乗客の流れに着目し、これを誘導・制御することにより高密度輸送線区における乗降時間の短縮、列車遅延の防止を行う手段について開発・検討を実施した。
平成8年度はラッシュ時における各駅における乗降状況と列車運行状況の実測結果から、輸送力と旅客需要の実態を調査し、一時的局所的ではあるが、両者の間に不均衡が生じ、遅延が発生していることを確認した。また、乗降状況の実測結果に基づいて乗客流シミュレータを開発し、乗客誘導により車両間の混雑度を平滑化した場合の乗降時間を計算した。その結果、乗客誘導により停車時分の増大が抑制できることを確認した。
平成9年度は、平成8年度に実測した、乗降状況および列車運行状況をもとに乗客誘導の可能性と実施基準について調査分析を行った。さらに列車運行シミュレータを開発し、平成8年度に開発した、乗客流シミュレータと組み合わせることにより、実路線における乗客誘導の効果を定量的に検証した。また乗客誘導案内装置を試作して乗客誘導の実現可能性についても検証した。
なお、本研究は当協会内に学識経験者、運輸省、鉄道事業者、メーカ及び当協会などの関係者からなる検討委員会を設け、調査、検討を行い、設計製作などに関しては三菱電機株式会社に委託して研究を行ったものである。
ここに、帝都高速度交通営団殿をはじめとして、本研究にご協力頂いた関係各位に感謝の意を表する次第である。
平成10年3月
社団法人 日本鉄道電気技術協会
