があったことを考えれば、これは理由にはならないという。昔の家庭では、妻は専業主婦であるか、夫と一緒に働いていた。子どもは無料の働き手でもあったので、家族の人数が多いことが必要だったのである。これは今でも発展途上国にも見られる。妻が家庭を離れて職業を持つようになると、子どもは役に立たないばかりか金もかかる。主婦の就業率が高まり、避妊技術が普及したことが少子化を招いた。現代のフランスのカップルが以前より少ない子どもしか持たないのは、彼らが以前より少ない子どもの数を「望んでいる」からだといえるであろう。
1970年代のフランスにはウーマン・リヴ運動がおこり、女性の生き方や家族のあり方に大きな変化を与えた。家族の変貌については次章に譲り、ここではフランスにみられる最近の少産傾向の要因を考察してみたい。
? 出産コントロールの普及
フランスでは、1920年に人工妊娠中絶を禁止し避妊法の宣伝活動も罰する法律ができていたが、第二次世界大戦後に平和な時代が訪れると規制開放へと向かった。1960年代に登場した有効な避妊法は1967年に合法化され、1974年には避妊薬にも疾病保険が適用されるようになった。いっぽう妊娠中絶も1975年に自由化され、1982年からは中絶費用に対しても疾病保険が適用されている。20年ほど前からみられる出生率の低下は、出生コントロールの普及が大きく影響しているといえよう。
現代の25歳以下の若者は年上の年代の人々より少ない子ども数を望んでいるといわれるので、将来は出生率はさらに低くなる可能性がある。また受胎した赤ん坊の性別を知ることができる技術によって出産する子どもの性別を選べることになるので、男女の比率を不均衡にする危険もある。アンケート調査では男子が好まれるという結果が出ているので、女子の割合が低くなれば、当然ながら出生数を上昇させるためには不利に働くことになる。さらにこの技術によって男子と女子を1人づつ持つことが容易になるので、3人ないし4人の子どもを持つ家庭の数が減少する結果にもなるであろう。
● 避妊法の普及
1967年の避妊法認可は出生率に大きな影響を受けた。1963年から1967年にかけては、新生児の5人のうち、1人は望んでいなかった子どもであり、1人は予定していたより早くできてしまった子どもであった。この割合は1983年には10人に1人となっており、望んでいなかった子ども数の減少は出生数の半分に相当することになる。
今日のフランスでは、20歳から49歳の女性の3人に1人は何らかの避妊法を実施している【図表2-3参照】。避妊していない女性の大半は、妊娠の可能性はない、肉体関係を持つ相手がいない、妊娠を望んでいる、などの理由で避妊が必要でない人々である。妊娠を望まないにもかかわらず避妊しない女性は3%に過ぎない。しかもその割合は、20代の女性では1%にも満たない。