8. 総 括
(財)日本水泳連盟医・科学委員会・医事部,東京大学大学院教育学研究科教授 武藤 芳照
(財)日本水泳連盟医・科学委員会・医事部,東京大学大学院教育学研究科 太田 美穂
バタフライは、正式には、1953年平泳ぎから派生・独立した競技種目であり、クロール、平泳ぎ、背泳ぎに比べれば、歴史の浅い泳法である。
現代のバタフライ泳法の原型を日本人が確立したとされていることもあって、オリンピックでの入賞や世界記録の樹立等、バタフライの普及・発展に日本選手は大きな足跡を残している。
日本(古式)泳法の中には、バタフライと酷似した泳法が見られることもよく知られており、時代を逆上って、日本人がバタフライと深く関わっていたことは誠に興味深い。
他の競泳種目に比して、身体の上下動が大きく、また、落下時の瞬間最大速度が全泳法中最大であることから、躍動感あふれる力強い泳ぎの代表として位置づけられ、また親しまれている。
しかし、その分、すぐれた水泳技術と強い体力を要する種目であるため、低年齢の子どもや中高年者にとっては、負担の大きな泳法という側面も有している。
特に、骨格の未成熟な幼少年期に、早期よりバタフライの激しいトレーニングを継続すれば、腰部障害や肩部障害をきたす例も少なくない。
また、かつては、妊婦水泳にバタフライは腰痛をきたすので、好ましくないという意見も強かったが、妊婦に伴う女性ホルモン分泌の変化の影響で、骨格の柔軟性がいつもより高まり、それ程問題にはならない例もあると考えられるようになった。
さらに、マスターズ水泳の普及に伴って、バタフライを泳ぐ中高年の数も増加しているが、若い一流競泳選手と同様のフォーム・姿勢のバタフライではなく、中高年らしい「大人向けの上手なバタフライ」を身につけるのがよいであろう。
バタフライの歴史は、その時代の泳者の苦労と工夫の積み重ねにより成り立っている。
腕と脚の調和、手の入水からかき方の軌跡、2つのキックの打ち方、呼吸、スタート、ターン、タッチの方法等、ひとつひとつの技術をとらえてどうしたらより大きな推進力が得られ、より抵抗の少ない姿勢となり、記録が伸ばせるか。また、障害を予防できるかといった課題を、苦しみ考え抜いて、ほんのわずか向上する。そんな営みの連続であるようだ。
日本人の体格・体力面の不利な点を乗り越えて、こうした知恵と工夫でスポーツに挑戦していく意欲と姿勢は、バタフライや水泳に限らず、日本のスポーツ全体の飛翔につながるものであろう。