4. バタフライの科学―スタート,ターン,フィニッシュについて一
大阪教育大学助手 生田 泰志
1. はじめに
競泳のレースは,スタートの号砲からゴールするまでで構成されており,その勝敗は泳者がゴールタッチし,電光掲示板が止まった瞬間の記録で決定される。つまり競泳の「競技力」は当然のことではあるが「記録」で評価されているわけである。したがって毎日のトレーニングで目指している「競技力向上」とは「記録短縮」と置き換えることができ,それはレースに関与する様々な局面に要する時間を短縮することの積み重ねによって達成されるのである。しかしながら今だに多くの選手やコーチが「競技力向上」の全てを「泳ぎを速くすること」と捉えていることも多いようである。その結果,泳ぎの速さは向上したものの,泳ぎの関与の少ないスタートやターン,フィ二ッシュについての技術や能力に劣っていたために,勝負に敗れたり記録が短縮しなかったといった例も少なからずみられる。もちろん記録短縮に大きく貢献するのは泳ぎの速さであることは言うまでもないが,それはあくまでも記録短縮に貢献する一要素であるということを改めて認識しなければならないだろう。そのためにもスタート,ターンおよびフィニッシュが競技力に与える影響について検討した結果をトレーニングに反映させることが必要であろう。
そこで本稿ではバタフライのスタート,ターンおよびフィニッシュ局面における動作のポイントについて解説し,さらにそれらをより簡便に評価する方法について紹介することとする。
2. 競技記録とスタート,ターンおよびフィニッシュ局面の関係
競技記録とスタート,ターンおよびフィニッシュ局面の関係を検討するために,1995年から1997年に行われた日本選手権水泳競技大会の100mバタフライの予選,B決勝および決勝レースに参加した男子190名,女子204名のレースを対象とした3)4)5)。競技記録の分布は図1に示した通りである。
データの収集は日本水泳連盟医・科学委員会が実施している競泳のレース分析法に従って行った。