以上のことから、日本住血吸虫症の常在地域では、小学校の児童を対象にして IgG クラス抗体価を測定することにより、その地域の感染の現状を年単位でモニタリングすることが可能であると考えられた。事実、今回の調査においても、IgM クラスの抗体応答による評価では陽性例数自体が少なく地区の間で差がでなかったのに対して、IgG クラスの抗体応答によって判定した場合には、糞便検査でみられた傾向を反映し、かつ感染状況をより感度良く評価することが出来た。
3. 各村落在住一般住民の血清疫学調査
オリエンタルミンドロの各村落在住一般住民についても、濾紙採血による抗体検査を実施した。採血に濾紙を用いるという点を除いては、小学校児童の血清検査と同様の方法で、ELISA法によって血清中の IgG クラス抗体を測定し、判定をおこなった。
表6はその結果を示している。今回は、検体のほとんどが Malabo 住人のものであり、他の地域の検体がごく少数であったので地域間の比較は出来ないが、多数の検体を集めることが出来た Malabo 地区では、陽性率が43.4%と一般住民の抗体検査でも小学校児童の血清検査と同様にかなり高い値を示した。小学生と比較して、一般住民ではその行動範囲も多様であると考えられるため、この結果から単純にその村落の感染源汚染の度合を評価することはできない。しかしながら、住民の2人のうち1人が抗体陽性という結果は、この地域が日本住血吸虫症のかなり高度な浸淫地であることを示しており、殺貝剤の散布などのコントロール対策を早急に実行する必要があると考えられた。
Malabo 村については、本年度の調査で初めて陽性と判定された一般住民のデータを加えた地図を作製した(図3)。陽性者が新たにつけ加えられた家屋およびその人数を、以下に示す〔家屋番号(新たな陽性者の例数)〕。
1(1)、9(1)、10(1)、17(1)、19(1)、76(1)、77(1)、78(1)、87(1)、88(1)、105(1)、107(1)、110(2)、116(1)、119(1)、121(1)、126(2)、128(1)、138(1)、139(1)、140(1)、152(2)、154(1)、161(1)、162(3)、174(4)、175(1)、178(2)、179(1)、180(1)、219(1)以上。(合計31家屋、40人)