ィウ州の州、地区ソビエトは、1992年の最初の州・地区国家化いらい、すでに5年以上にわたって「君臨すれども統治せず」状態である。1994年の州・地区の再自治体化、地方選挙もソビエトの活性化をもたらさなかった(71)。つまり、ロシアの地方政治が「弱い自治、政党制の未発達、ボス支配、それなりに強い地方議会」として要約できるとすれば、ウクライナのそれは「弱い自治、発達した政党制、ボス支配、極端に弱い地方議会」となる。エリツィンが議会を砲撃した結果として生まれた地方制度によく似た制度が定着したのは、皮肉なことにロシアそのものではなく、議会が銃剣に身を曝したことのない国ウクライナだったのである。
(松里 公孝/北海道大学スラブ研究センター助教授)
(注)
(1) 本稿においては、地名をはじめとする固有名詞は、非常に普及した呼称である「キエフ」「ドニエプル」などを除いてウクライナ語の発音に従って表記する。国家機関としてのソビエト、および集団農場については、それに対応するウクライナ語である「ラーダ」「コルホスプ」は用いず、「ソビエト」「コルホーズ」を用いることとする。これは、読者の理解を容易にするためである。
(2) 次の文献を参考にした:Mistseve samovriaduvannia v Krainakh Skhidnoi Evropy ta Spivdruzhnosti Nezaleznykh Derzhav u 1994 rotsi (Kyiv, 1994); Andrew Coulston (ed.) Local Government in Earstern Europe-Establishing Democracy at the Grassroots (Edward Elgar, 1995); 家田修(編)『ロシア・東欧における地方制度と社会文化』(「スラブ・ユーラシアの変動」領域研究報告報、No.25、1997)。なお、この表に示された地方制度の性格付けは、ロシアについては1993年憲法および1995年連邦地方自治法、ウクライナについては1996年憲法および1997年地方自治法に依っている。
(3) 前掲『ロシア・東欧における地方制度と社会文化』への家田修による序論、p.3。
(4) 選挙が「それなりに多元主義的」というのは、野党が合法的にそれに参加することができる点では多元主義的だが、国家・地方公務員、選挙管理委員会、マスコミ、司法・検察が中立的ではなく、さまざまな違法行為も辞さずに政権党の勝利に貢献するという点では多元主義的ではないという意味である。
(5) 1990年以降のモスクワ市政の事例分析を通じてこれを実証したのは、マイケル・ブリである。次を参照:Michael Brie,”The Political Regime of Moscow-Creation of a New Urban Machine? ″Wissenschaftszentrum Berlin fur Sozialforschung (P97-002)
(6) 松里公孝「ロシアの地方制度-大改革から1995年地方時地方施行まで」『体制移行諸国における地方制度に関する調査研究』(財団法人 地方自治研究機構、1997)、pp.21-41、とくにpp 32-35。
(7) スヴェルドロフスク州知事 E・ロッセリの報道官が書いたロッセリの伝記には、1992年頃に州指導部が連邦政府、最高会議に対して行った陳情が何の効果も生まなかったことが、ロッセリ派をしてウラル共和国構想に走らせた様子が描写してある。次を見よ:Aleksandr Levin,Kak stst' gubernatorom v byvshem SSSR (Ekaterinburg, 1995) , s.85-102.
(8) 軍管区司令官がモスクワよりも管区内の州行政府に対してより強い忠誠を感じる事態については、西欧同盟戦略研究所研究員のステファン・デ・シュピーグレア(Stephan De Spiegeleire)が指摘している。
(9) V.Vagin,“Evoliutsiia konfliktov i protivorechii federal'nykh vlastei i vlastei sub"ekta Federatsii v sfere administrativnogo upravleniia," v kn.: Evoliutsiia vzaimootnoshenii tsentra i regionov Possii: ot Konfliktov k poisku soglasiia (got. k pechati).
(10) P.O.Masliak, P.H.Shishchenko, Heohrafiia Ukrainy - probnyi pidruchnyk dlia 8-9 klasiv seredn'oi shkoly (Kyiv, 1996), pp.6-7.