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公共サービス部門の自治体企業長2名、ナホトカ・テレビのジャーナリスト1名、建設関係者1名、ナホトカ船舶修理工場技術管理部の職長1名、社会民主主義系の市民活動家1名である。これは、企業代表と公共部門代表が程良くミックスされているという点では、かなり強力な構成である。ただし、全員がかつてのソビエトや共産党での活動経験を持たない新米議員である。政治的には、ナホトカ船舶修理工場・技術管理部の職長ウラヂーミル・ニズィーがロシア共産党員であるのみで、残りの議員は無党派である。議会成立後1年間は、グニェズヂーロフ市長が市議会議長代行を務めたが、1997年11月、議会はニズィーを議長に選んで自立の道を歩み始めた。ニズィーは1947年生まれ、高専卒業、1970年代以来、ナホトカ船舶修理工場で働いてきた。旧体制下では平党員であり、共産党やソビエトの有給職に就いたことは一度もなかった。旧体制崩壊のいきさつに義憤を感じて新生ロシア共産党の活動家になり、それを理由にかつての自分の党指導者(で今や資本家)に解雇され、子会社にあたる技術管理部門に移った。1996年12月に市議会に当選、翌年4月以降、専従有給議員となり、11月に議長に選出された(104)。

市長と市議会は市憲章草案をめぐって対立している。そもそも1995年連邦地方自治法は、個々の自治体に、憲章を締結して自らの組織形態を選ぶ自由を与えた。理論的には、(執行権力が弱い順に)次の4形態が考えられる。?市議会が市長を選出するカウンシル制、?市長は直接公選されるが、市議会と市長が共同して執行権を行使する南ドイツ型、?直接公選市長と市議会との権力分立(日本型)、?直接公選市長を執行権力のみならず「自治体の長」とする執行権力優位の権力統合型(この場合、市長が市議会議長を兼ねることが多い)。筆者は、?の例には一度も出会わなかった。?は、タンボフ州ヨトフスク市の1例を知るのみ、圧倒的多数は?か?を選択した。このうち、リージョン・レベルで知事が強く、執行権力の優位を自治体レベルでも貫徹しようとする傾向が強いリージョンでは?が自治体に押しつけられる。これらのリージョンでは、連邦法が保障した自治体の組織形態選択の自由は有名無実化する。筆者が知る限りでは、サマーラ州、スヴエルドロフスク州、リペツク州、そして沿海地方がこれにあたる(例から明らかなように、これは「知事が右か左か」とは関係がない)。沿海地方の地方自治法は、?を全ての自治体に義務とした(第26条)(105)。多くの自治体はこれに従ったが、ナホトカ市議会は?型の憲章を準備した。ここでは、市長はあくまで執行権力の長に過ぎず、市議会の決定は(市長のみの署名ではなく)市長と市議会議長の連署を以て発効する。グニェズヂーロフ市長は、この憲章草案がクライ法に違反していることを理由にそれへの署名を拒否した。市議会は、そもそもクライ法が連邦法に違反していることを主張して対抗している(106)。

 

 

 

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