地方制度が集権的である理由も、周辺諸国によって分割統治されていた時代が長いことによるという説明が成り立ちうるのではないだろうか。
他方、体制移行諸国のうちでも、国民国家としての歴史の比較的長い国々は、転換によっても、統合された国家としての枠組み自体はさほど動揺することはなかったように思われるが、こうした国では、他方において、旧体制下で抑圧されてきた集団の政治参加ないしは自己決定への渇望、すなわち民主主義に対する期待が、むしろ分権へのインセンティブとして強く現れているといえよう。
連邦国家であり地方自治に関して憲章主義を採っているロシア連邦や、二層制の地方制度の構造を持つハンガリーは、体制移行諸国の中では比較的分権的な地方制度を有していると思われる。もちろん、これについては多様な要因が考えられるが、その理由の一つとして、今述べたように、これらの国が国家としての歴史が長く、凝集性が相対的に高いために、統合の必要がそれほど強くないことをあげることもできるのではないだろうか。
3 政府間関係
体制移行諸国においては、当然に、地方制度も、それが分権的なものになるにせよ集権的なものになるにせよ、変革を余儀なくされる。それらの国々における体制移行が、それまでの権威主義的な一党独裁制と官僚制支配に対する、国民の自由と民主主義を求める運動によってもたらされたことから、その変革に対する取り組みは、国民の改革に対する要求や期待に応える形でなされたといえるだろう。
しかし、その場合、国民の要望がどの方向に向けられ、またどの程度の強度をもっていたかによって、新たに作られる制度のあり方は大いに異なる。具体的には、中央と地方、あるいは地方間の関係をどのように構成するかという問題である。これは、いうなれば下からの主張が地域の自治を指向するのに対し、それまでと同様の社会水準維持の期待は中央集権的で一元的管理を求めることになり、方向の異なる二つのベクトルをどのように均衡させるか、換言すれば、中央政府の行政活動と地方における政治的主張をどのように調整し、バランスをとるかが、制度構築における重要な論点となるのである。
ところで、政府間関係、すなわち中央政府と地方政府との関係を規定する制度の設計にあたっては、わが国の地方分権論議においても、中心的な課題となっている権限、財源、そして職員の配分と中央の地方に対する関与のあり方が重要であり、改めて指摘するまでもなく、事務権限、さらに税財源の配分をめぐって、関係する中央と地方間で、また地方政府相互間で抗争が生じ、最終的には妥協の産物としての地方制度が形成されることもめずらしくはない。