序 調査研究の概要
本調査研究は、昨年度(1997年度)行ったロシアおよびポーランドの地方制度および地方自治の調査研究に引き続き、旧社会主義諸国の地方制度および地方自治について調査研究したものである。それゆえ、その目的および意義は、昨年度の調査研究報告書で既に述べているところであるが、以下に念のため、改めて要約しておきたい。
1 調査研究の目的
周知のように、1989年以降、それまで世界を三分してきた一方の勢力である東側陣営が崩壊し、社会主義体制を採用してきた旧ソ連および東中欧の諸国では、一斉に資本主義体制へと国家の基幹となる経済体制の転換が行われた。これらの体制移行諸国では、経済体制の再構築のみならず、国家の基盤をなす諸制度やそれを支える体制の理念ないしイデオロギーの根本的な転換も行われた。この制度理念のレベルにおける転換は、これまでの制度が有してきた正統性を根本から問い直すことになった。
こうした基本制度の一つに、これらの国々における地方制度がある。当然、これらの国では、地方制度についてもすでに大幅な改革が実施されてきた。そして現在、国によっては、更なる改革の気運が生まれつつあるところもある。
本調査研究は、体制移行を行った旧ソ連および東中欧の旧社会主義諸国における地方制度の改革の足跡を辿り、現在の地方制度および地方自治の実態を明らかにしようとするものである。
より具体的な狙いとしては二つある。一つは、大規模な体制の転換によって、すでに制度が確立し高度に発展している先進諸国では容易に浮上してこない、制度の根元的問題を浮き彫りにすることである。もう一つは、急激で大規模な改革には、当然にさまざまな抵抗や障害があるが、それらがどのようなものであり、またそれらを克服するためにはいかなる策がありうるのか、といった制度改革の問題を考察する上で有益な示唆を得ることである。
むろん、改革のあり様は、一口に体制移行諸国といっても、国によって大いに差がある。それはそもそもの国情の違いによるものもあれば、あるいは改革の戦略や担い手の政治的リーダーシップの違いによるものもあろう。それぞれの国の事情を探り、地方制度を規定している要素および改革の戦略を比較の視点から分析することによって、共通する地方制度の特質および改革の方向を明らかにしたいと考える。