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しかし、どれだけ思い切った合併や税源委譲を行ったとしても、基礎自治体の大部分が財政的に完全独立するような合併や税源委譲は実行不可能である。したがって、基礎自治体レベルについていえば、もともと地域経済力に格差がある以上、財源調整が不可欠である。地域社会の生活インフラの格差を経済力格差のままに放置することは賢明であろうか。人々は経済的理由やさまざまな理由によって地域を移動する。その場合、移動先の地域にそれぞれなりに工夫されたそこそこの水準の地域生活インフラが準備されていることは、移動を円滑にする。このことは生活者の視点からも、また、経済の視点からも望ましい。したがって、財源調整によって一定の財政力を自治体に付与し、経済のダイナミズムから相対的に独立して安定的に《地域社会づくり》を推進できることは国民的利益にもかなっている。基礎自治体について財政独立論を採択しない理由は、国、邦、道・州など何らかのより大きな単位の統合にとって、それなりのミニマム・スタンダードの確保が必要だということを大多数の人が承認していると考えるからである。そうであれば基礎自治体の財源調整は不可久である。

分権的制度における財源調整制度は、理念・方式ともに現行とは異なったものでなければならない。現行の財源調整は補助金と地方交付税によって行われている。補助金を整理統合して一般財源化したりメニュー化したりすることは自己編成の可能領域を拡大する。しかし、補助金だけでなく、地方交付税についても改革が必要となる。特に、地方交付税の補助金化といわれるような事態は解消しなければならない。現行の地方交付税制度では、必置基準などの諸基準にしたがって単位費用が設定され、基準財政需要が算定される。国の予算制約からくる交付総額のマクロ的調整はあるが、各団体への配分は基本的には基準財政需要と基準財政収入との差額に比例する。建前として、地方交付税は使途限定のない一般財源だとされている。しかし、必置基準が未充足だと減額措置がとられる。また、補助事業負担分や一定条件をみたす単独事業をまかなう起債の利子・償還費分が基準財政需要に算入される。これらのことが示すように、交付税制度は、たんに標準的行政を充足する標準的財政力を保障する制度ではない。国の視点から望ましい行政へと誘導する機能も果たしている。このように実質において個別事業の財源を保障する財源調整は、標準的行政の全国的均霑化や誘導には効果を発揮する。個々の事業ごとの財源を保障するこうした考え方を「事業財源保障の理念」と呼ぶことにしよう。こ

 

 

 

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