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■事業の内容

本年度は以下の内容について実施した。
(1) 近代化設備の仕様の決定及び開発
  本事業では、本財団が平成4年度及び5年度に策定した内航船近代化船の試設計の基本方針を踏襲しつつ、内航船の近代化の課題を明確にして、ワンマン操船を可能とする統合繰船システムを装備したブリッジ、M0仕様でモジュール化された機関システム、及び快適な居住区に必要な機能をとりまとめ、その設計と開発及び対象船舶への装備を行った。
〔対象船舶(内航近代化実証船)の主要目〕
 ・船  主   エヌケーケー物流株式会社、船舶整備公団
 ・船  名   翔陽丸(しょうようまる)
 ・船  型   全通2層甲板、船主バルブ付
 ・主要寸法   Lpp×B×D×d=70.7×12.0×7.12×4.12(m)
 ・総トン数   497トン
 ・載荷重量トン数 1,600トン
 ・主機関    1,324KW(1,800ps)×1基、A重油使用
 ・航海速力   12.5ノット
 ・航行区域   限定近海区域(非国際航海)
 ・主要貨物   鋼材
 ・主要航路   福山港を起点とした全国各地
 ・建造造船所  中谷造船(株)
[1] 統合繰船システム
   本事業が目指す内航近代化実証船では、港内、狭水道、輻輳海域を含めてブリッジ内でワンマン運航が可能なシステムを目標とし、支援システムと人間の相補的分担より、永年の経験が必要な繰船者の熟練に過度に依存しないで的確な繰船が可能で、従来以上の安全性が確保されることを設計方針とした。基本的な機能としては、航海当直中の作業を1人で的確かつ容易に行うことができるように、コックピット式コンソールを採用し、定位置で必要な情報の入手と操作が可能な配置にした。
   コンソールの機能は以下のとおり。
  a.航海用レーダ(主及び補助)
   21インチCRTに250mmの有効直径を有し、レーダの他にARPA機能(衝突予防援助)とエコーテイル機能を有する。
  b.電子海図装置(ECDIS)
   GPSあるいはDGPSによる自船位置、船首方位、自船運動ベクトルが電子海図上に表示され、ARPR(衝突予防援助)情報機能、航路計画機能、航路監視機能(座礁予防機能)、避航支援機能等を有する。
  c.航海情報表示装置
   船体運動情報(船首方位、旋回加速度、対地速力、対水速力)、アクチュエーター操作量(舵角、CPP翼角、主機回転数、バウスラスタ回転数)、自然環境(風向、風速、水深)、警報一覧等の機能を有する。
  d.離着桟時の繰船
   船長によるジョイスティック繰船システムを有する。
  以上の機能を有する機器として以下の機器を装備した。
   (a) トラッキングパイロット:TP-30、トキメック社製
   (b) DGPS:GPS Navigator GP-80、古野電気社製
   (c) 電子海図表示装置:EC−6000、トキメック社製
   (d) ARPA機器(衝突予防援助装置レーダ):BR−2510、トキメック社製
   (e) ブリッジモニタ:BM−2000、トキメック社製
   (f) 居眠り防止装置:WA−1、トキメック社製 
   (g) W/Hコンソール:IBS−100、トキメック社製
   (h) ジョイスティック・コントロール:TOMAC−1000、トキメック社製
 [2] アクチュエータシステム
   内航近代化船の総合性能としては、効率の良い推進性能を持つとともに、多少の荒天であっても就航、出入港や定時運航が可能であり、また、港内、輻輳海域でもブリッジ内はワンマンで安全に繰船できるという条件の確保が必要である。さらに、内航近代化実証船は鋼材輸送を主とする中距離貨物船ということもあり、これらの条件を満たすシステムとしてバウスラスタ、CPP(可変ピッチプロペラ)、特殊舵の組み合せによるアクチュエータシステムを選定し、以下の機器を装備した。尚、繰船性の向上に関しては、当初ポンプジェット方式の検討を計画していたが、本事業の基本的な目的が標準的な内航路船の省力運航時の性能であることから、上記システムが選定された。
  a.バウスラスター:ディーゼル機関駆動、固定ピッチプロペラ、推力:2.7トン、出力:300ps、マスミ内燃機工業社製
  b.駆動原動機:6HAL2−HTN型ディーゼル機関、ヤンマーディーゼル社製
 [3] 居住設備
   居住区は若い船員の内航船離れに対する対策という意味もあり、その快適化近代化の大切なポイントと指摘された。よって、内航近代化実証船の居住区については、本事業の構想、船舶の運用と乗組員の希望等を慎重に考慮し、5人の乗り組みを想定して以下の構想にとりまとめ、それぞれ機器を装備した。
  a.個室空間をゆとりあるものにするため、割り当てる面積を増加させるとともに、振動や騒音に配慮してボートデッキに配置することにし、その室使用は可能な限り標準化する。
  b.共用的スペースは上甲板上に配置し、ゆとりある設計にする。特にバスは共用的なものとしてゆとりある仕様とする。また、ギャレイの機能を強化し、万能調理器を導入して調理の容易化を図る。
   装備機器
   (a) 浴室:NAOKO、中山産業社他製
   (b) 厨房システム:SSC−04、マルゼン社製
 [4] 機関室機器モジュール
   機関室機器モジュールは、機関室の工法に関して、工期短縮や建造コストの低減を第一義とし、国内各造船所における共通を狙ったものとした。内航近代化実証船においてモジュール化の対象とした機関室機器は以下のとおり。
  a.冷却海水ポンプ:GVS125−M、容量:125平方メートル/h×20m、Shinko社製
  b.ビルジバラストポンプ:GVS150−MS、容量:170平方メートル/h×21m×2、Shinko社製
  c.冷却清水ポンプ:SVA125−MH、容量:110平方メートル/h×25m×2、Shinko社製
  d.空気圧縮機:KSC形、容量10.3平方メートル/30k、ヤンマーディーゼル社製
  e.潤滑油清浄器:ACE−10V、容量:最大600l/h、ハリソン産業因島社製
  f.清水ポンプ:CFT−400C−E、容量:3平方メートル/h×25m、ハリソン産業因島社製
(2) 船舶の建造中の調査
  内航船の近代化を推進するためには、近代化設備の機能面のみならず、近代化に対応するためにかかるコストを把握しておくとともに、今後の標準化、工場内製作化等の設計・製作・設備方法における工夫によってコスト削減が望めるのかを明らかにしておく必要がある。そのための第一段階として、内航近代化実証船の建造のうち、近代化設備に係わる作業を調査し、造船所による建造中における指摘事項と今後の対応についてとりまとめた。
(3) 完成後の性能確認試験及び中間評価
  内航近代化実証船の建造後において各種の試験を実施し、本事業において新たに採用したシステムの性能等を確認するとともに、中間評価として取りまとめた。
 [1] 性能確認項目
  a.要素繰船性能(速力、旋回性能、追従性能、停止性能)
  b.統合繰船システム(自動航行機能、避航支援機能、ECDIS等航海機器機能、居眠り防止装置)
  c.ジョイスティックシステム(前進・後進性能、横移動性能、その場旋回性能)
  d.機関室各種モジュール性能
 [2] 性能確認試験の実施
   性能確認試験は以下の要領で実施した。
  a.日 時   平成9年1月23日(木)及び1月29日(水)
  b.場 所   西能美島西方海域

■事業の成果

内航船の近代化については若年船員の不足、船員の労働環境の改善等の問題があり、これまで各種の機関において研究及び検討が行われ成果を上げていたが、昨今の契機の低迷等により内航海運業界を取り巻く環境は非常に厳しく、これら研究等の成果は実際の船舶への採用が進んでいないのが現状であった。このため、これまでの研究の成果を十分踏まえ、近代化設備を内航船に装備し、その後の実際の運航についての追跡調査を通じ、近代化仕様の内航船についての実証及び評価の調査研究を行うことにより、今後の内航船の近代化に資することを目的に本事業を実施した。
 本年度は近代化設備の仕様について検討を行い、これに則した機器等を船舶へ装備した。実際の船舶の建造過程を通じて近代化設備についての検討・開発・装備を行うことによってより現実的な研究を行うことができた。また、建造中の近代化設備に係る各事項を調査し、次年度に同一造船所において計画している同型船(従来型)建造時の建造工数調査との比較により、近代化設備に対応した工数低減等に関する詳細な検討が行えるものとなった。さらに、建造された内航近代化実証船に対し性能確認試験を行い、船舶としての性能、近代化設備の作動状況等を確認することができた。
 以上、本年度事業は2年計画の初年度として当初計画どおり実施でき、満足できる成果を得るとともに、次年度に計画している実運航を通じての近代化設備の運用の実証・評価に大きく貢献するものとなった。





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