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■事業の内容

(1) へき地医療の実態調査と好発疾患の発生機序に関する研究
 [1] 地域における妊婦の出産に対する二一ズの調査
   本研究では、妊婦の主体的な出産を援助するために、栃木県内で出産予定の妊婦2,006名にアンケート調査を行った。その結果、妊婦は多くの二一ズ、例えば分娩方法はできるだけ何もしない自然の分娩を希望し、過ごし方は制限されない、出産に夫が参加する、心理的に満足のいく出産を望み、処置や方針の説明を求めるなどの二一ズを持っていた。しかし、自ら医療関係者へ申し出るという行動はしていないことが明らかになった。
 [2] へき地診療所における超音波診断の支援
    −画像データの転送による読影・診断補助−
   へき地などの遠隔地で記録した超音波画像を、インターネットを用いて転送する方法について研究を行った。100dpi程度以上で取り込んだ画像をJPEGで中等度圧縮し、電子メールに添付して転送した。これにより診断に有用な情報を短時間で転送することが可能であり、画像を受信した判読者は十分にアドバイス可能であった。このシステムは、今後パソコンと通信の進歩に伴い、へき地での診療には添うような支援システムとなると考えられる。
 [3] 心原性脳塞栓症の病態と予防に関する臨床的研究
   経口抗凝固療法中の僧帽弁狭窄症患者において、凝固活性の指標であるFPA及びTAT値は、左房血において、右房及び末梢血に比べ有意高値を示した。一方、血小板活性の指標であるPF4及びβTG値は、左房、右房及び末梢値間で有意差を認めなかった。すなわち、僧帽弁狭窄症患者では、抗凝固療法により、末梢血レベルは適切な抗凝固状態を呈していても、左房内は依然凝固機能亢進状態にあり、本症における左房内血栓の形成、全身塞栓症の発症に関与するものと推測される。
 [4] 都道府県レベルでのへき地医療支援システムに関する研究
   へき地等の医療の総合的な支援を主たる目的として、県立病院に設置されている地域医療部・総合診療部等の現状等を比較検討した結果、その機能は試行錯誤の段階にあるものの、担当医師の献身的な努力もあり、全体としては組織や運営が改善されつつある。地域診療部・総合診療部等は、今後さらに組織、機能等を確立することによって、へき地等の医療の安定的、継続的な確保、向上に貢献できるシステムであることが明らかになった。
 [5] 農山村及び漁村などへき地集団における溶血性貧血の分類とその発生機序に関する分子生物学的研究(<2>)
   先天性ならびに後天性溶血性貧血を誘導するRhシステム血液型物質の分子生物学的解析を行い、Rhd,RhCEポリペプチドの赤血球膜発現に際して、いずれも複数のco−mo1ecu1eを必要とすると考えられた。そして、先天的にこの両ポリペプチドを欠損し慢性溶血性貧血を呈するRhnull例において、スプライシング異常に起因するRh50糖蛋白の変異が検出されたことにより、Rh50はRhd,RhCEに共通のco−mo1ecu1eであることが強く示唆された。
 [6] 鳥取県農漁村地域における胃疾患の疫学的及び分子生物学的研究
   漁村の鳥取県岩美地方と農村の同県智頭地方き胃疾患におけるHelicobacter Pylori(HP)感染率を比べ、大差のない結果を得た。また、ABO式・Lewis式血液型表現型とHP感染を疫学的・免疫組織科学的にみたが、Leb抗原が若干関与する印象はあるものの明確な相関はいえなかった、Lewis式ではさらに遺伝子型でも検討し、Leを持つ型の方がle/le型より感染が高率であったが、Seやse型にはそうした関係はなかった。
 [7] 血栓症のリスクファクターとしての接触系凝固因子群のへき血における検討
   接触系凝固因子の一つである活性型高分子キニノーゲン(HKa)が血漿中に存在する最も強力な細胞接着抑制因子、抗血栓因子であることを我々は見出した。地域での健康診断スクリーニング等により、HKaを中心とする接触系凝固因子群の地域特異性や遺伝的負荷と血栓傾向の評価を行い、血栓症の予防に貢献する目的で、モノクロナール抗体を作製し、10−100mg/mlまで検量できる測定系を開発した。
[8] へき地勤務医の臨床研究推進法に関する研究
   へき地勤務医が効果的に臨床研究を行う方法として薬剤疫学的アプローチを試みた、一次調査として自治医科大学卒業生(外科系)を対象に術後に使用するニフェジピン舌下ならびに予防的抗菌薬投与についての問題点につきアンケートを行った。それぞれ108名、117名より解答が得られた。本結果をもとにへき地勤務医が主体となって行う二次規模研究に着手し、さらに術後の降圧療法における薬剤とその投与経路を前向きに研究する予定である。
 [9] 民間療法に対する意識調査
   岩手県の1農村自治体を対象として、民間療法の実状を把握することを目的に調査を行った。対象は同自治体の成人500人で、方法は自記式質問票を用いた間接面接法による横断調査である。半数以上が民間療法を施行した経験があった。伝統的な療法としては生薬の利用が多く、磁気製品、健康食品の利用も多くみられた。情報入手は家族からテレビが多く、使用目的は急性健康問題への一時的な対応、健康増進が多かった。
 [10] 医師の勤務環境としての診療所評価
   診療所環境では、設備、医療および事務スタッフ、行政の姿勢を特に重視する傾向がみられた。逆に、新しさ、都市への近さ、勤務時間、書籍購入の容易さなどはあまり重視されていなかった。満足度については、行政の姿勢、公共交通機関、都市への近さ、代診の得やすさ等に対しての満足度が低かった。診療所住宅環境では、特に環境、広さ、地域の住みやすさ、家族の意見などが重視されていた。また、買い物や交通についての満足度が低かった。
 [11] 患者のQOLを高めるための「在宅ケア適応スコア」の開発
   今回、おやま城北クリニックの症例で、「在宅ケア適応スコア」を開発した。スコアの結果によると、総得点13点以上ならば在宅ケアの導入は可能であることがわかった。在宅ケアの開始にあたっては、その症例の適応について十分検討、評価する必要があるとの結論に達した。
 [12] 地域における発達障害児の早期発見と診断法の確立脆弱X症候群は、家族性精神遅滞を来す疾患で、FRAXA,Eの2種の遺伝子上のGCC/CGGリピートの異常延長が発症に関与する。我々は、家族性精神遅滞を持つ精神遅滞男児46名において、Pfu Polymeraseを用いてPCRスクリーニングすることにより、FRAXAおよびEのGCC/CGGの異常延長の有無を簡便にスクリーニングし得た。脆弱X症候群は、46名中、1名のみであり、日本における発症頻度は低いと推定された。

■事業の成果

本事業は、「へき地医療の実態調査と好発疾患の発生機序に関する研究」及び「保健・医療・福祉関係職員に対する研修及び地域住民に対する健康問題医療情報の提供」を行い、その成果は前述したとおりである。これらの研究によって得られた成果によって、我が国のへき地における住民の健康管理と保健医療活動の問題点が逐次明らかにされるものと期待している。

 また、へき地等医療関係職員に対する研修によって、現地において開催した研修を含めて最新の医療技術、保健活動の方策等の研修を通して受講者の資質向上に努めることにより、ひいては、へき地住民の福祉の向上及びへき地医療の向上に寄与することができたものと思われる。





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