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■事業の内容

(1) 体力の調査研究
 [1] 調査項目
   体力測定の方法と評価の標準化に関する研究調査を行った。
 [2] 調査対象
   健康増進センター、民間アスレティッククラブ、老人クラブ、小中高大学等1班(40名)×7班=280名
 [3] 調査場所
   東北、関東、中京、関西、九州地区
(2) 運動処方の調査研究
 [1] 調査項目
  a.中・高校運動部員の運動量(運動強度及び運動時間)及びカロリー摂取量の測定を行った。
  b.中・高校運動部員の健康状況及び意識調査を行った。
 [2] 調査対象
   中学校・高等学校の男子運動部員(200名)を対象とし、7班で調査。
 [3] 調査場所
   東京・名古屋・福岡
(3) 調整力の調査研究
 [1] 調査項目
  a.調整力の発育発達と老化のプロセスに関する研究調査を行った。
  b.幼児および高齢者の調整力(体力)に関する研究調査を行った。
  c.幼児および高齢者の歩行動作に関する研究調査を行った。
 [2] 調査対象
   1班80名×7班=560名
   (1班は園児、児童男女各40名、高齢者80名)
 [3] 調査場所
   東京・京都・大阪・広島
(4) 講演会の開催
 [1] 開催日   平成8年7月12日
 [2] 開催場所  国立教育会館
 [3] 講演内容  研究成果の航海発表
 [4] 講師人員  2人
 [5] 聴講者   約200人
(5) 資料の刊行配布
 [1] 資料名   体育科学第25巻
 [2] 規 格   B5版 約200頁 和欧文
 [3] 部 数   1,000部
 [4] 内 容   研究成果の報告
 [5] 配布先   体育・スポーツの学術団体・実施団体(各350名)
         大学等の教育機関・研究機関等の体育指導者・研究者(各650名)

■事業の成果

(1) 体力調査専門委員会
  日常生活の機械化が招いた運動不足が誘因の成人病が問題となる昨今、運動能力としてではなく健康を支える基盤としての体力の持つ意味が重要である。
  体力調査専門委員会では、運動不足によって低下しそのことが健康障害の引き金となる危険性の高いことが示唆されている全身持久力、筋力/筋持久力および柔軟性によって、7班がそのいずれかを指標にして健康との関わりを明らかにしようとした。
  その結果、全身持久力の指標は最高心拍数の75%に相当する酸素摂取量が妥当で、それを歩行運動で安全にテストすることが出来ることを明らかにした。また、脚筋力や脚進展パワーが歩行能力と関連が深く、中高年者の加齢に伴う体力の変化やQOLを敏感に評価出来ることが実証され、テストとしては同じく歩行能力が簡便で有用な指標になることが示された。また、柔軟性の評価の体前屈は立位より座位の方が安全性が高いこと、腰痛未経験群の長座体前屈の平均値は腰痛経験群より4cm高く、長座体前屈が腰痛予測の指標となり得ることが示唆された。
  このような研究成果を背景に、健康に係わる体力テストの成績と、医学的な正常値を手がかりに点数化した指標との関連を検討したところ、健康上望ましい最大酸素摂取量が40歳では41.2、50歳代では36ml/kg・分以上であった。さらに、健康阻害因子となる血圧、肥満度、結成脂質濃度および喫煙、アルコール過剰摂取、運動不足を、それぞれ1あるいは0で得点化して体力との関連を見ると、この得点が増すほど体力要素の成績が低下し、健康上好ましくないと考えられる≧3の境界値は、比握力で66.1、長座体前屈で2.4cm、全身反応時間で373msecであった。
  運動習慣、健康に係わる体力要素の水準および検診結果としての血液性状の三者は互いに有意な関連を持って変動することも明らかにされ、これらの成果はこれからの特に中高年者の健康の維持増進のための運動指導に多くの貴重な資料を提供するものである。
(2) 運動処方専門委員会
  運動処方専門委員会では、学校スポーツの中心となっている中学校、高等学校における「運動部」の望ましいあり方を求める調査研究を進め、生理学的、体力学的、社会学的、心理学的と多面的、総合的に調査研究を行った。
 [1] 生理学的、体力学的研究
   中学生の陸上部では男女とも相対的に高い強度の占める時間が大学生よりも長かった。高校生の女子バレーボール部をみると、競技水準が高い高校の方が練習時間が長く消費エネルギー量が多いが、強度でみると競技水準の低い学校の方が高かった。また、背筋力や垂直跳など競技水準が高い学校の方が良い成績であった。高校生柔道部の朝練習の調査では、少なくとも練習後3時間は心拍数が亢進した状態が続いていたことがわかった。運動部活動が筋力や筋パワーに影響を及ぼし始めるのは高校生以降である。全力運動における筋活動様態の変化の年齢差(中学生と高校生)をみると、高校生では速く速度でより大きなパワーが発揮され、大きなパワーのピーク値を示した。中学生の短距離疾走時の筋酸素動態についてトレーニング群(陸上部短距離)とコントロール群(サッカー部および成人)の間で比較すると、トレーニング群の筋 Cxygenation は成人の値と近かった。
 [2] 社会学的研究
   運動部の「望ましさ」に関して中学生では運動に対する「内的」な理由が、高校生では、運動に対する「外的」な理由が強くなる傾向にあり、それが部活動継続による結果として、「忍耐力」や「友情」といった「対他的」なものとなっていく。また、かられは、学校運動部の理想として重要だと思う基準を、「人間関係」「自身の成長」「練習の仕方とそれを規定する部の目標や伝統」であるとした。
 [3] 心理学的研究
   心理学的には、中学生、高校生および大学生に対する調査から、「プレー面での実力や貢献に関する自身や満足」、「運動部活動の楽しさと満足感」、「チームとしての実力や機能への満足度」、「指導者の人間性や指導法」、「部活動に対する周囲の評価」、「課題設定や目標設定における主体性」、「運動部内での部員相互の関係」などの因子による運動部に関する意識が構成されていることがわかった。
(3) 調整力専門委員会
  調整力専門委員会では、わが国が高齢化社会をにらんだ生涯スポーツの時代を迎えていることから「調整力の発達と老化」を主テーマにすえて7つの研究班を編成し、基本的な動作がいつごろ獲得されてどのように発達するのか、またそれらが高齢期を迎えてどのように衰えるのかを研究してきた。人間の最も基本的な運動は歩行運動であり、したがって歩行動作がうまくできるということは、生物学的な意味での人間らしさの証明であると同時に、高齢者によっては自立した生活を営むのに不可欠の行動力を意味する。歩行能力の発達に関する研究では、生後間もない原始歩行(両脇を抱えられた歩行)の段階で、緩やかな踵着床の動作がつま先着床に変化し、やがて、1歳頃の独立歩行期を迎えると、わずか2〜3ヶ月の間につま先着床の歩行が踵着床の安定した歩行に発展することが明らかにされた。歩行から走運動への発達については、生後1歳半から2歳の幼児の遊びの中に跳運動に近いかたちの原始的な走運動が発見され、また跳運動についても力強さと巧みさの発達過程が詳細に研究された。
  高齢者に関しては、転倒による骨折がしばしば「寝たきり」の原因となるため、歩行能力を中心に柔軟性や平行能の研究がなされ、バランスについては閉眼片脚テストで大多数の高齢者が異常と判定される実態や、太極拳や社交ダンスなどの運動習慣が高齢者のバランス能力の遺児に関わっていることなどが明らかにされた。また、歩行研究では、高齢者の階段を降りる動作に危険が多く、その一因が視力の低下にあること、筋力が衰えると歩行が遅くなる上に歩行効率も低下すること、そして筋力を高めるトレーニングを行えば、脚をしっかり伸ばした若々しい歩きが生まれることなど、「生涯スポーツ」のあり方に関わる数多くの貴重な研究成果が得られた。





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