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■事業の内容

(1) 3次元曲がり部大組立の現状、問題点、要望等を把握するためアンケート調査を行い結果を集計した。又:NKK津製作所の曲がりブロック製作現場に於て精度追跡、作業形態観測を行い実態を把握した。
 [1] アンケート調査書の作成と配布
   以下の項目のアンケート調査表を作成し、造船大手7社へ回答を依頼、配布を行った。
  a.製造船状況
  b.保有設備と作業人員の状況
  c.曲がり部大組立の工作方法
  d.現状溶接と自動化の現状について
  e.自動化に対する問題点と理想の溶接法等の考え方
 [2] アンケート回答の回収とまとめ
   アンケート回答を以下のように整理し、研究開発報告書に添付資料としてまとめた。
  a.回答の総まとめ表の作成を行った。
  b.工作方法と設備について集計し結果をまとめた。
  c.現状溶接と自動化について問題点の整理を行った。
 [3] 現状精度と作業形態の観測
   NHK津製作所の曲がり部ブロックの大組立工程で以下の項目を観測、調査し、研究開発報告書に添付資料としてまとめた。
  a.曲がりブロック製作現場で溶接部の精度実態を計測しまとめた。
  b.曲がりブロック製作現場で作業形態観測を行いまとめた。
  c.アンケート回答と観測結果より継ぎ手別自動化難易度をまとめた。
(2) 3次元曲がり部ブロック工作法に於ける自動溶接化の検討
   各工作法と溶接の自動化についてアンケート回答集計と現場実態調査まとめより分析し、共通問題点を抽出整理し、開発の方向について検証した。この結果を溶接装置設計へ反映し、3次元曲がりブロック自動溶接システム全体の基本仕様を完成させた。
 [1] アンケート回答から工作方法別に自動化への要求事項を整理
  a.ロンジ先行溶接組立、バラ配材組立、枠先行組立工作法別に検討し、構造、精度、溶接工程別に開発要求事項をまとめた。
 [2] 3次元曲がり部ブロック自動溶接システム全体の基本仕様作成
  a.3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボットの基本仕様、基本設計を作成し、本年度開発の基本とした。
  b.3次元曲がり部ブロック傾斜隅肉溶接ロボット基本仕様、基本設計を作成した。
  c.上位3次元設計情報〜四節の適応制御に至る自動溶接全体制御システムの基本仕様、基本設計を行った。
(3) 3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボットの開発
   曲がり部ブロックの局面傾斜外板を板継ぎ溶接する「知能」を持った溶接ロボット化を行うため溶接法、制御、各機器について調査、選定、実験を行い、フロトタイプ機を製作し、適用性を確認した。
  この結果から実用機の設計を行った。
 [1] 傾斜シーム片面の溶接方式の選定と設計
  a.溶接方法の選択
    CO2溶接、MAG溶接、サブマージ溶接法より最適のものを選択(過去の実績、文献等で最良のものを選択)した。
  b. 溶接電極数と溶接材料、溶接裏当て材料の選択
   (a) 単電極、2電極について適用板厚範囲を設定し、最適のものを選択して溶接開先を決定した。
   (b) 決定した溶接開先に対して最適の溶接材料、溶接裏当材料を溶接試験を行い決定した。
  c.溶接トーチの選択
   使用溶液電流に耐えられる容量、最小限の形状、重量のものを選択した。
  d.開先内仮付溶接対応方法の設定
   (a) 選択した溶接開先に対する最適な仮付溶接形状を実験した。
   (b) 仮付溶接が本溶接に与える影響と回避出来る溶接条件を設定するため溶接試験を行い本溶接に影響が無い事を確認した。
  e.選定方式の溶接線傾斜角度に対する実用溶接条件設定
   試験片を傾斜させて溶接試験を行い対応最大傾斜角と適正上を求めた。
 [2] 溶接線倣い方法の選定と設計
   溶接中に溶接開先の中心へ高さ一定で溶接トーチを正確に位置保持すべき溶接線倣い方法の選択を行った。
  a.アークセンサ制御方法の選択
   高速回転アークセンサと一般のアークセンサについて比較調査を行い最適のものを選択し、リアルタイムに溶接トーチを溶接線に追従させる最良な制御方法を決定した。
  b.溶接線傾斜角検出方法の選択
   市販の傾斜角検出センサから最適のものを選択し、傾斜角変化に溶接条件をリアルタイムに制御する方法に決定した。
  c.倣い機械部方式の選択
   センサより検出した信号に対して応答性と信頼性に優れたフィードバック制御を採用し、機械部の構成、形状を決定した。
  d.選定方式の実用条件設定
   設定した方式の動作条件範囲を決定し、実用条件範囲を設定した。
 [3] 開先ギャップ変化対応方法の選定と設計
   溶接中に刻々と変化する溶接ギャップに対して最適な溶接条件を設定するためのギャップ検出と制御方法を決定した。
  a.ギャップ検出方法の選択
   開先ギャップを検出するためのセンサとして、画像処理方式、スキャニング・レーザ方式、レーザセンサ揺動式について検討した。
  b.検出データのフィードバック制御(溶接条件の適応制御)方法の選択
   ギャップ検出データから溶接に最適な溶接条件をリアルタイムに変化させ、検出位置より後方にある溶接部とのずれを考慮した制御を決定した。
  c.選定方式の実用条件設定
   選定した方式の動作条件範囲と実用条件範囲を実験値より設定した。
 [4] 溶接制御方式の選定と設計
   [1]〜[3]の各検出データを基に変化する溶接部の状況に対してリアルタイムに溶接諸条件を最適に保持出来る制御方式を設定し、設計を行った。
  a.溶接条件自動設定、追従制御方式の選択
   各検出データから最適条件を自動設定させる制御装置を決定した。
  b.上位設計情報より溶接継ぎ手条件の取り込み方法の設定
   溶接開始前に板厚、開先状況、傾斜状況等の諸データーを上位設計情報より取り込み、溶接装置へ溶接基本条件を自動プリセットさせる方法を検討した。
  c.溶接適応制御部(知能)及び装置全体制御部の設計
   [1]〜[4]の決定結果、条件をまとめ制御部全体の詳細設計を行った。
 [5]溶接装置の機械部について操作性、信頼性を考慮し形状を台車走行式に決定し、又、ブロック内の板継ぎ溶接部への移動及び、溶接中引っ張られるケーブルの処理を含めてガントリー式吊り下げ方式を選定し設計を行った。
  a.傾斜溶接倣い機械部の形状選択
   最小寸法、軽量、簡単な操作、耐久性からの形状の決定をおこなった。
  b.曲面溶接走行機械部の形状選択
   アンケート結果による「レールレス式」と「レール式」について試作検討比較を行い「レール式」を選定した。
  c.溶接装置を溶接部へアクセスさせる方法の選択
   レール方式、ガントリー吊り下げ方式、カンチレバー移動方式等について最も現場的なアクセス方法の検討を行い、機構が簡単で自動ケーブル追従装置を搭載したガントリー吊り下げ方式に決定した。
 [6] 3次元曲がりブロック傾斜シーム片面溶接ロボットの設計製作
  a.プロトタイプ機の設計製作
   現場実用機に出来るだけ近い装置を1式製作し、設計通り完成した。
  b.溶接実験用定盤の設計製作
   モックアップ試験材を固定する簡易オフセット定盤は現場使用設備を参考に設計製作を行い完成した。
 [7] 溶接装置の実用性評価実験
   試験材料にて性能の確認と各条件設定を行い、最終確認に現場と同条件のテスト材の自動溶接を行い実用性について確認した。
 a.小型試験材、モックアップ材により溶接装置各機能について以下に示す性能確認と制御パラメーター、適正溶接条件の設定を行った。
   (a) トーチセット動作の確認
   (b) アークセンサ性能確認
   (c) 記憶遅延再生制御機能の確認
   (d) 開先ギャップの検出結果の確認
   (e) ギャップ変化・傾斜変化に対する適応制御の確認
   (f) 溶接継ぎ手性能の確認   

■事業の成果

本研究開発は船体曲がり部ブロックの大組立溶接を現状の手溶接に代わって溶接の知能制御(適応制御)を搭載した「3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボット」、「3次元曲がり部ブロック傾斜隅肉溶接ロボット」及び「自動溶接全体制御システム」で行うシステムを開発するものである。本年度は開発の前段階であるアンケート調査と製造現場に於ける曲がり部ブロック組立溶接作業の実態調査を行い、研究開発の方向性に誤りが無いことを検収し、調査結果より各装置の開発使用作成と基本設計を行った。これに基づき開発の第一段階である「3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボット」のハード、ソフト選定を行いプロトタイプ機を設計製作し、諸実験、テストを繰り返し性能を調査した結果、使用通りの性能を持つ装置が完成した。
 この開発は他の自動溶接法についても、「最後の一歩」として解決出来なかった溶接部の溶接中に於ける状況変化への自動対応(適応制御)が可能になる事でオペレータ監視の必要はなく、無人に近い運転が出来、現状の2倍以上の能率が期待できることが判った。又、この「適応制御」技術の適用範囲についても曲板〜平板、鋼板〜アミルに至る全ての自動溶接に今後広く応用出来ると確信出来た。これらの開発経緯と結果詳細を以下に示す。
(1) 3次元曲がり部大組立の実態調査
  各社の3次元曲がり部大組立の現状についてアンケート調査を行い集計した結果以下の状況であった。
  ・曲がり部大組立人員は大組立全体の53%であった。
  ・作業量は大組立全体の50%以下で手溶接主体であった。
  ・溶接能率は平行部の約半分(2.6mn/H)と極端に低い。
  これは曲がりブロック特有の曲がり外板、溶接部材傾斜、ギャップが大きく、平行部のような自動化が進んでいない状況であることが判った。これらの自動化に対する各社の現状は、簡易自動溶接装置の一部適用程度にとどまり、開発の理想と計画はあるものの旧態依然手溶接が中心となっている。一方、本研究開発を進めるに当たり、現場の状況を把握するためNKK津製作所の曲がりブロック製造現場を流れる平均的曲がりと最大曲がりのブロックで
溶接の精度、状況、形態について観測を行った結果、アンケート調査とほぼ同様であり開発装置の定量仕様とした。尚、各社の開発の理想を溶接法別にまとめた結果「曲がり外板の板継ぎ溶接」、「曲がり外板付骨部材溶接」共に本研究開発内容と一致しており研究開発の方向性に誤りが無いことが確認出来た。
(2) 3次元曲がり部ブロック工作法に於ける自動溶接化の検討
  アンケート結果より本研究開発は「バラ配材工作法に於ける溶接の自動化」に限定し自動化開発要求事項をまとめた結果、「現状ブロック構造、溶接部の状況、精度、処理量に対応出来、能率が現状の2倍以上向上する装置」で知能を持った溶接ロボットを基本とした。これに基づき以下の開発仕様を作成した。
  ・3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボットの基本仕様、基本設計を作成し、本年度開発の基本とした。
  ・3次元曲がり部ブロック傾斜隅肉溶接ロボットの基本仕様、基本設計を作成した。
  ・上位3次元設計情報〜溶接の適応制御に至る自動溶接全体制御システムの基本仕様、基本設計を行った。
(3) 3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボットの開発
  曲がり部ブロックの曲面傾斜外板を板継ぎ溶接する「知能」を持った溶接ロボット化を行うため溶接法、制御、各機器について調査、選定、実験を行いプロトタイプ機を製作し、適用性を確認した。
 ・溶接方法の選択
   造船の溶接技術の中心となっているCO22電極溶接を決定し、先行電極にはアーク力の分散効果で良好な裏ビード形成が出来る高速回転シーク溶接法を採用した。適用溶接開発条件は板厚15〜24mm、50度V開先、面内仮付、最大傾斜角20度とし、これに最適な溶接材料、裏当て材料を実験により選択した。各選択実験試験片の溶接検査を行った結果、欠格は無く、さらに溶接継ぎ手の機械的性質について試験を行って結果、良好な継ぎ手性能が得られていることを確認した。
 ・溶接線倣い方法、制御方法の選定と設計
   制御方法は、高速回転アークセンサ式倣いとレーザセンサによる揺動倣い及び傾斜角検出センサによる組合せ方式を採用した。これらのセンサにより溶接線のずれ、ギャップ、仮付位置、前後左右傾斜地を出力させ、変化に応じて溶接条件をリアルタイムに制御する方法に決定した。これらの検出信号に対して機械部の構成はX、Y直交2軸のスライドブロックとサーボモーターによるフィードバック方式を採用し形状を決定した。検出データのフィードバック制御(溶接条件の適応制御)方法については「板厚」、「ギャップ」、「前後左右傾斜」の溶接条件3因子をもつデータベースによる方式とし、検出位置と溶接部とのずれを考慮し、リアルタイムに溶接条件を変化させる「記憶&遅延再生式ギャップ適応制御」を設定、選択し、溶接条件変化に自動対応できる「適応制御」を設計した。
 ・溶接装置の形式、アクセスの最適方法の選定と設計
   溶接装置位置制御軸の構成について検討した結果、「直交座標型スライドブロック」方式が最適であり採用した。曲面溶接走行機械部については傾斜面での対滑り、簡易制御化、高信頼性、コスト等から走行台車方式を選択した。又、溶接装置を溶接部へアクセスさせる方式は自動追従式ガントリー吊り下げ移動方式に決定した。
 ・3次元曲がり部ブロック傾斜シーム片面溶接ロボットの製作
   [1]〜[3]の決定結果を基に現場適用機に出来るだけ近いプロトタイプ機を1式製作し、試運転チェックの結果設計通り完成した。
 ・溶接装置の実用性評価実験
   小型試験材及びモックアップ材を用いて溶接自動制御機能の性能、適正溶接条件について実験を行った結果、「傾斜シーム片面溶接ロボット」は設計通りの機能を有することを確認した。性能については現場で繰り返し適用実験を終えていない面もあるが以下に示す効果が推測でき、開発仕様の「板継ぎ能率を2倍」をほぼ達成すると確認できた。
  *一回の走行で全層の溶接が可能(自動溶接能率1.5倍)
  *自動溶接適用範囲の増加(手溶接→自動溶接化)
  *安定した裏溶接ビードが得られる(手直し減)
  *溶接開始〜修了迄溶接条件の操作不要(脱高技量)
  *仮付用治具が不要(付帯作業減)
(4) 今後の課題
  本研究開発では、熟練溶接上の「勘と技量」をセンサとコンピュータ、溶接技術を駆使して人に代わりリアルタイムに最適の溶接条件で全自動溶接出来る「適応制御」(知能制御)を確立し実用に至った。しかし、本開発装置は生まれたばかりのプロトタイプ機であり、実用上の欠点もある。以下にその項目を示し第二段階でのブラシアップと今後の開発課題とする。
  *装置全体の小型化の検討
  *溶接部始終端の全溶接化
  *溶接速度の高速化
  *溶接装置自身で溶接厚板の自動検出と設定
  *上進〜下進溶接対応
  *レールレス化 





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