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ヨーロッパ公演を振り返って

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ヨーロッパで春と言えば、一年で最も美しい季節。今回の旅は、それを充分満喫できる長さで、それはそれは前からずっと楽しみにしておりました。いきなりロンドンで始まるというのが、私としては聴衆をよく知っているだけに、ただひとつの心配でしたが、それを吹き飛ばすような盛大な拍手にカーテンコール。私自身14年ロンドンにいて、初めてと言っていい程の体験でした。もちろん、その後の演奏会をする上での何よりの勇気となった事は、いうまでもありません。続くバーミンガム公演で満場となったホールのお客さんの一人に「モーツァルトは最高だった!」と言われ、実は私は弾いていなかったので、ちょっぴりくやしい思いもしたものでした。アムステルダムでは、ネザーランド・フィルによる交流会もとても楽しいものでした。
ドイツは、クラシック音楽の本場中の本場という事もあり、ミュンヘン、ベルリン、フランクフルトなど、いやな場所もたくさんありましたが、これまたべートーヴェン(私は弾いていなかった)の交響曲第1番が大受け、大成功でした。ドイツは特に、同じ日本人がオーケストラに入っているなど旧友との交流も盛んでした。異国の地での彼らのはげましに送られながら、オーストリアは、まずヴェルスから。初めての場所ですが、舞台の狭いこと、ホールの小さいこと、おおよそ日本では考えられませんが、それでもお客さんは大満足。町も大変すてきな所でした。ウィーンは、さすがに格式高いホール。あこがれのホールに初めて参加して、何よりの気分にひたりました。最後のプラハでは、120%のお客さんによるブラボーの嵐。今回の旅は、多くの課題、宿題を残しながらも、大変貴重な経験もあり、実りの多い族となりました。このことは、必ず、これからの演奏にも、良い影響を与えてくれるものと信じて頑張っていきたいと思います。
(木野雅之 コンサートマスター)

 

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帰国して1週間。いま思うとヨーロッパでの1ヶ月間はあっと言う間に過ぎ、夢だったのではないかとさえ思います。
私たちは4月から5月にかけて、ロンドン、バーミンガム、アムステルダム、ミュンヘン、ベルリンはじめドイツの各地、そしてオーストリア数都市、さいごにチェコのプラハヘとまわりました。丁度、新緑の眩しい季節で、色とりどりの花々が咲き誇り、どこへ行っても絵のような風景でした。
前回のヨーロッパ公演からはや5年。前回は全行程45日間25公演で、今回は27日間5公演。短い期間のわりには、長距離移動をしてすぐ本番という日も何日かはあり大変ハードな旅でした(そう感じたのは決して年齢のせいだけではないと思うのですが…)。初めての時はヨーロッパのホールというものがどのようなものなのか、皆目見当がつきませんでしたが、今回はその点、アムステルダムのコンセルトヘボウ,ミュンヘンのガスタイクホール、ウィーンのムジークフェラインが2回目だったので、私自身、とまどいは余りありませんでした(勿論、緊張はしましたが…)。
指揮者の広上さんは、ヨーロッパでの演奏経験も豊富で、演奏における聴衆とのコミュニケーションのとり方についてきちんと作戦をたてていたようでした。毎回本番のまえに厳しいリハーサルがあったので、安心して本番にのぞむことができました(ただし、ピアノ協奏曲は、ピアニストのガヴリーロフさんが極度の不調だったために、最後まで安心できませんでした)
なによりも嬉しかったのは、お客さんの暖かい拍手でした。公演後、帰り際に私のところに来て「とてもよかったわ。このようなエネルギッシュな演奏を聴いたのは、生まれて初めてですよ」と、手を握りしめてくれたご婦人、「私は日本語を少しだけ知っているの。日本人のこのような素晴らしい演奏を聴くことができて、とっても嬉しいわ」と、嬉しそうに話してくれた老婦人、「とても素晴らしかった。また聴きに来たい」と握手を求めてきた紳士など、と思い思いのことを話しに来てくださり、そういうとき「演奏してよかった」と心から感動しました。
私たちが、日頃演奏している西洋音楽というものが、いかなる風土のもとにはぐくまれて来たかということを、今回のヨーロッパ公演では肌で感じることが出来ました。このことをばねにして、私たちはこれからもさらによい演奏をめざしていきたいと思います。(松井久子 ハープ)

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日本フィルはここ10年程の間に、今回を含めてヨーロッパに3回、北米に1回と計4回の海外公演を経験してきた。こうした積み重ねで、日本フィルが何を得てきたのかについては、それぞれに評価はあるのだろうが、少なくとも私自身にとっては、オーケストラというものを自分なりに理解していく上で大変貴重な経験をさせてもらったと感じている。
特に今回は私を含めて多くの楽員が3度目のヨーロッパ公演であったためか、「よそゆき」の旅でなく、いつもの日本フィルでいられたことでまたあらたな発見も多かったように思う。
聴衆の反応も平常心で受け止めてみると、違った面が見えてくる。本場ヨーロッパで喝采を受けたことでただ満足するのではなく、私たちの演奏の何を喜んでくれたのかを考えるようにもなった。同時に強く感じたのは、ヨーロッパの聴衆はそれぞれ自分流に自然体で音楽を楽しみにきているということだった。当たり前のことのようでありながら長い歴史の中で培われてきた音楽と生活の結びつきがあってこそと思える雰囲気を痛感した。楽しみにきているからこそ、つまらないと思えば途中で帰るし、ブーイングも出る。それだけに大きな拍手や立ち上がって喜びを表してくれる姿はとても嬉しかった。
「三角帽子」の後半に、独唱の坂本さんが客席の後方から突然歌い出すところがある。ふと気づいたのだが、その時にも客席のほとんど誰も首を後ろに回すことなく音楽に身をゆだねているのだ。こんなところにも、音楽の楽しみ方に慣れのようなものを感じた。
様々なホールで演奏しながら、音響だけでなく、そこが地元の聴衆やオーケストラにとってどういう場所なのかということにも思いを馳せていた。
もちろんホールによってオーケストラの音が作られることもあらためて実感させられたし、それぞれの響きや実際に演奏してみての感想も以前より客観的に見ることができたと思う。3度目にしてはじめて知ったことは決して少なくなかった。

最終公演は「プラハの春」。ドヴォルザーク・ホールで2晩連続の演奏会だった。演奏はツアー屈指の出来で聴衆の反応も非常によく大成功で終われたと思う。しかし、この演奏会のチケットは約2,000コルナ(8,000円)で、聞くところによる

 

 

 

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