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ール…といきたいところですが、コンサートの前ということでミネラルウォーターをいただきました。
20:00〜の開演に向けてGPが始まってもピアニストが来ません。「曲目を変更する」「いやできない」と全員で話し合いが行われ、「とにかく待ってみる」と決めたその時、ガヴリーロフが入ってきました。食事の時間がとれないかもしれないと心配して、事務局の濱田さんと賀澤さんをはじめ読売旅行の方々が早速食事を用意してくれました。楽員のイライラも少しはおさまり、ピザをほおばっていた人や休憩していたメンバーを集め、急遽GP再開となり、開場までになんとかGPを終え、20:00開演。
満員のお客様は、私たちのひやひやどきどきなんて少しも感じていないらしく、ガヴリーロフもそれを感じさせない演奏を“ラ・カンパネラ”というおまけ付きで観客を湧かせていました。
終演は11:00過ぎ。ミュンヘン市街のホテルヘ到着したのは、1便に乗った私で12:30、最終便では1:30を過ぎていたそうです。
翌日は久しぶりのOFF。みんな自由にのんびりと休日を過ごしたのではないでしょうか。メーデーということでお店はほとんど閉まっておりました。それぞれにツアーを組んで、ノイシュヴァンシュタイン城など観光へ行った人、こちらへ住んでいる友人に会った人、ホテルで寝ていた人―それぞれ思い出を詰めて、明日ベルリンヘ発ちます。
(杉島倫子 ヴィオラ)

 

公演日:1996年4月29日(月)
公演地:フィルハーモニー・ガシュタイク(ミュンヘン)
指揮葎を持ったダンサー

 

 

広上淳一指揮 日本フィルハーモニー交響楽団

 

《ミュンヘン 1996年5月2日付け》

 

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創立40周年の日本フィルハーモニー交響楽団と、その正指揮者・広上淳一によるヨーロッパ公演は。ベートーヴェンの第1交響曲で開演した。それは鋭く研ぎ澄まされた効果ではなく、屈託ののない演奏上のウィットと、ベートーヴェンの初期に対する深い理解を示すものだった。
さらにアンドレイ・カヴリーロフは、駆り立てられたようにシュタインウェイに着くや、ラフマニノフの「パガニーニ狂詩曲」を、このもとになったヴアイオリン綺想曲がヒァノで受け継がれるのか試みるのである。その24の変奏曲には、どんなにすばらしいピアノ芸術が含まれていたことか。もちろんそれはヴァイオリンのものなのではあるが。
カヴリーロフにとって残念だったのは、日本の演奏家たちがラフマニノフの華麗な器楽構成をあまり生真面目に受け止めすぎ、ピアノにも提示すべき輝きが十分あることを示す余地が、ソリストにはあまり残されていなかったことである。
ついで、主要作品として取り上げられたデ・ファリャの「三角帽子」では、指揮者の振り付けに一見の価値があった。指揮棒を手にしたりはずしたり、まるでダンサーがオーケストラを指揮しているかのようである。厳格さとユーモア・愛嬌が一体になっている。最後のクライマックスでは、日本のスペイン観の勝利となった。
光り輝く純度の高い管楽器奏者と弦楽器奏者たちに、次の質問に答えて欲しい。皆さんはどこにそんなに長く身を隠していたのか。そして皆さんの「スター・ダンサー」広上をどこに隠していたのか。彼は超音楽家であると同時に、エンターテイナーだ。彼はまたいつ来るのだろうか。
(E.リンダーマイヤー 訳・宮沢昭男)

 

公演日:1996年4月29日(月)
公演地:フィルハーモニー・ガシュタイク(ミュンヘン)

 

オーケストラの効果的な大音響に訴える

 

《ミュンヒナー・メルクア紙 1996年5月2日付け》

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日本フィルハーモニー交響楽団は、そのもてるすべてを披露してみせた。ミュンヘン・ガシュタイクに初登場(*注 原文のまま、実際は2度目)し、ラフマニノフとファリャではオーケストラの大音響を効果的に鳴らし、ベートーヴェンの第1交響曲ではヨーロッパ古典の神髄に迫るものだった。
38歳の正指揮者広上淳一は「三角帽子」のダンスが始まる前から、スプリング・ボールのように飛びはね回り、ベ一トーヴェンで、既に荒々しい動ききのワンマン・ショーを展開した。音響バランスという点では、とくにオーケストラの響きが重厚に過ぎ、適正な仕上がりとは言い難い。広上は、重くどっしりと大胆に、これ以上劇的なものはないというほど強調してなぞり、勇猛果敢な雄叫びを彷彿させる。しかしアンダンテになると、二・三の柔軟性ある経過部が成功し、すぐれた木管楽器が素晴らしく美しい音調のフレーズを奏でた。
ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」では、リズミカルな黙想というのがふさわしい。反応が早く正確な日本の奏者たちとともに、この作品で登場したロシア人ピアニスト、アンドレイ・カヴリーロフが、うなるような低い音で、とてつもなく素晴らしいテクニックを披露した。広上は、忌々なるほどリズミカルに繰り返す協演・競演を、的確なタイミングで調整をうまくはかり、見事に失策を回避してゆく。
広上は変化に富む作品の勘所をしっかりつかみ、聴衆は感動し、色彩、描写とも豊かな素晴らしいスペインの「三角帽子」の演奏に熱狂するがままだった。
(ガブリーレ・ルスター 訳・宮沢昭男)

 

 

 

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