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日本フィル創立40周年を迎えるにあたり、「聴衆の皆様と楽員の間をもっと身近に」との思いをこめてのこのコーナーです。ステージ裏の“普段着”の横顔をご紹介します。5月の今回はハーブの松井久子です。
ハープのイメージ…広い自宅の居間で、ソファに座った両親に見守られながら、お嬢様がハープを奏でるという絵を想像してしまいます。(筆者の勝手な思い込みです)日本フィルのハーピストは、果たして…
松井:確かに、一世代前の方々は本物のお嬢様でしたね。でも、私達の年代ぐらいから、そんな事なくなったんじゃないかしら。今は国産のハープができたおかげで以前よりハープが手に入りやすくなりましたし。
−いつからハープを?
松井:私、音大の付属中学で始めはピアノを専攻していたんです。でも、ある時ハープの演奏会に行って、その方の弾いている姿に憧れて…それからハープを始めました。ハープとピアノはよく似ているんですよ。ソロ楽器である事、両手で弾ける事、譜面などもほとんど変わりませんし。
−ソリストでなくオーケストラ・プルイヤーを目指したのは?
松井:大学に入学してから、初めてオーケストラで演奏したんです。一人で練習していたらできるのに、オーケストラに入ると、緊張して指がついていかなかったの。それに、タイミングや演奏中の気配りの仕方…そういった事が全然わからなくて。実際、ソリストとして演奏するのと違って、オーケストラで演奏するには、身体でわかっていく部分が多いですからね。でも、そのうち楽しくなって…『ああ、自分はオーケストラで演奏する事が好きなんだな』と思いました。
−リハーサルから本番直前まで、度々ハープの調弦をされていますね。
松井:湿気やその日の気温の変化、お客様が入場される前と後でも、調弦が狂うので。梅雨時や夏場の湿気が一番つらいですね。ハープの弦は音の高さによって材質が違います。高い音からナイロン弦、羊の腸から出来ているガット弦、ピアノの弦と同じスチール弦の3種類からなっています。ガット弦は、雨の日のホールの湿気によって、すごい時は4〜5本も切れる事があるのですよ。
−弦を弾く時には、指に相当大きな負担がかかるのでは?
松井:そう。ハープの共鳴板にかかる弦の張力は、音の高さによって違いますが、チューニングで使う”A(ラ)”の音で約2トンと言われています。だから、指にはかなりの負担がかかるので、昔は血豆ができたり、指の水膨れが破裂して、弾きながら指先の皮が飛んでいったりした事もありましたね。
−2トンですか。私のハープのイメージとはほど遠い…
松井:見かけほど優雅なものじゃないんですよ。ハ一プの重さは約40キロ。それを肩に若千もたれさせながら、両足のペダルで音を変えて演奏するんです。だから、男性の方がむいているかもしれませんわ。ヨーロッパのオーケストラには男性のハーピストも多いのですよ。ヨーロッパのオーケストラの話が出たところで、是非…
松井:ヨーロッバ公演の話ですね。丁度新緑の葵しい季節で、色とりどりの花が咲き、どこへ行っても絵になるような風景でした。私たちはヨーロッパで生まれた音楽を主に演奏しているわけですが、その地で演奏することができたこと、またアムステルダムのコンセルトヘボウ、ウィーンのムジークフェラインはじめ名高い歴史あるホールで演奏するという得難い体験を出来たことがとても幸せでした。でもなにより嬉しく思ったのは、各地でお客様に温かい拍手で迎えられたことです。もちろん、移動した先々でその土地のおいしいものも堪能しましたけれど(笑)。この経験を生かしてさらによい演奏をしていきたいと思います。
聞き手:星野究(tp)
文章:編集部

 

 

 

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