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速報 日本フィル創立40周年記念第3回ヨーロッパ公演
帰国のご報告と御礼
日本フィルは楽団創立40周年記念事業の一環として、去る4月22日から5月18日にかけて、1991年に引き続き3度目のヨーロッパ公演を行い、全15公演を終えて無事帰国致しました。ロンドン、バーミンガム、アムステルダム、ミュンヘン、レーゲンスブルグ、ベルリン、デュイスブルグ、ヴィルヘルムスハーフェン、フランクフルト、マンハイム、ヴェルス、クラーゲンフルト、ウィーン、プラハの5ヵ国14都市における各公演では、日本フィル正指揮者広上淳一はじめ、ピアノのアンドレイ・ガヴリーロフ、ヴァイオリンの渡辺玲子、メゾソプラノの坂本朱、ボーニャ・バルトーシュの各氏を迎え、リムスキー・コルサコフ、ラフマニノフ、ラロ、モーツァルト、べートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ファリャ、吉松隆の各作品が演奏されました。今回はロンドンでの「インターナショナル・オーケストラ・シーズン」やプラハでの「プラハの春音楽祭」への出演をはじめ、アムステルダムのコンセルトヘボウ、ペルリンのフィルハーモニー、ウィーンのムジークフェラインでの公演など、世界屈指の音楽シーズン、著名コンサートホールでの公演が大きな特徴でした。各地では聴衆の熱狂的な拍手とスタンディング・オーヴェイションに迎えられ、5年ぶりに訪れたヨーロッパでの成功を再び確かなものとしました。私どもはこのたぴの海外公演におきまして、国内での聴衆市民との見近なふれあいを育んでまいりました「市民オーケストラ運動」の実績を墓盤とした「文化使節」としての役割を果たせたのではないかと確信しております。私どもはこの貴重な経験の数々を得て、今後の演奏活動をさらに充実したものと致す所存でございます。最後となりましたが、この公演の実現に対しまして、温かいご理解とご協力を賜りました文化庁、東京都をはじめとする企業法人の皆様、数多くの市民の皆様に、心からの感謝を申し上げます。

【現地紙の公演評抄録】〈ロンドン〉

[デイリー・テレグラフ紙(4月30日)]
日本フィルハーモニー交響楽団の奇妙なところは、楽団員全員が指揮者を注目していることだ。イギリスの、またヨーロッパのオーケストラも時々は指揮台の方向に視線を向けはする。しかし、経験を重ねた目は各セクションの首席奏者間の内なるコミュニケーションから重要な方向性を容易に察知することが可能である。一方、日本フィルを統制する役割は台の上の男が担っているのである。広上淳一も注目に値する。エネルギッシユで舞踊的、アップビートではしばしば空中に軽く飛ぴ上がり、指の小さな振りの繊細さが必要とされる部分では指揮棒を歯の間に噛んでいた。オーケストラの委嘱作品、吉松隆の「鳥たちの時代」では、時に指揮をしている、というよりはむしろ、昔の潮流に乗って泳いでいるかのようだった。日本の現代音楽の多くがそうであるように、吉松の幻想曲もまた、東洋の音楽を模倣するフランスの作曲家の作品と対抗しているかのようだった。うねる弦の和音、ドビュッシー、ラヴェルを彷彿させる長く保たれる金管のペダルが、鳥の木管、弦のハーモニクス、そして調律された打楽器による鳥のさえずるような効果と重なりあっていた。素朴さがこの作品の暖昧さを救っていた。遠い青に消えゆく上昇スケールを伴って、第3楽章・終楽章は最も魅力的だった。(中略)
ファリャの「三角帽子」全曲は、より熱中できる演奏だった。ここでは集約的な弦楽器群が有効に作用し・オーケストラの昔の結束がスペイン風リズムを押し出すのに良い効果をもたらしていた。打楽器群は広上のフレージングに呼応して衝突、爆発を融合させていった。あるいは指揮者はもっと大胆不敵であってもよかったかもしれない。正確に拍を打つ、というよりは倣漫にアクセントを叩きつける様に。しかし、この作品は驚くほど効果的であった。坂本朱は激しい豊かなメゾで、2ヶ所のソロでは威厳のある存在をアピールした。
(ブライアン・ハント)

 

 

 

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