
古川柳のはなし
古句の鑑賞について
八木敬一
昭和五十九年、三省堂の『誹風柳多留全集』(索引付)が完結し、柳多留一六七篇全篇が初めて活字化された。その後もテキストの類は着実に整備・刊行されている。解説書も多数出版されているが、社会思想社「教養文庫」『誹風柳多留初篇』〜『十篇』二九八八年一は簡便ながら、内容のレベルが高く、推奨できる。本格的な語句の研究には『日本国語大辞典』、『角川古語大辞典』一刊行中一などの大規模国語辞典が有用である。
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〒569-11高槻市松が丘二−二九−一森岡錠一
本稿では便宜的に「一、一般句」「二、類型句」に分けて話を進めよう。句の下の符号は出典たる柳多留の篇数などを示す。
一、 一般句
始めに、味わいの深い句を二句紹介する。
あうた日を覚えているが女の気 二
「あう」が問題だ。ただ、女は男にあった日をよく覚えている、記憶のいいものだというのではこの場合不十分である。百人一首四三「あひ見ての後の心にくらぶればむかしは物をおもはざりけり」の場合と同じで、単にあうというのではなく、もっと進んだ意を持っていると解したい。『日本国語大辞典』「あう 一、?男女が関係を結ぶ」の意にまで解釈すると、鑑賞もずっと前進する。「気」は難しいことばであるが、気持、気分の意であろう。
元禄の古い例句を一句紹介する。
はやい事たまにあう夜の月のあし
もみぢ笠 元禄十五
小唄「せかれせかれて」(春日)に次の文句がある。「たまにあふ夜はせかれては逢ひ逢ふてはせかれ別れともない明の鐘」。これも意味深長な文句であった。
腰帯を締めると腰は生きて来る 一
「腰帯」が現在は難語。当時の女性は通常屋内では裾を引いて着物を着ていた。外出の際そのままでは歩きにくいの
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