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スタッフひとこと

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「暴れ天竜」の傍らにて
「暴れ天竜」といわれる程、濁流逆巻くこともあるそうだが、四月の天竜川はおだやかで広々とした貌をみせていた。
その流域の一角に、勇壮な太鼓の音がひびく。劇団たんぽぽの皆さんによるはやし太鼓の猛練習である。
劇団創立五十周年記念公演の「龍の子太郎」は、劇団の総力をあげての上演だそうだが、すごい熱気のなかで笛太鼓の稽古からスタートしたとのことである。
「始めよければ終わりよし」というが、この熱気あるスタートはすばらしい成果をみせるに違いない、と思わせる稽古振りであった。
劇団たんぽぽの花一輪運動は、劇団代表吉岡敏晴氏の言葉によれば、それこそ「踏まれても叩かれても」負けないたんぽぽのように根強く続けてこられたそうだ。
その花一輪がいかに子供たちの心を潤し、お金では買えない大切なものを懐に蔵(しま)わせたかと、その道のりのさまざまな苦楽を想い、持続する力の強さに頭さがる思いである。いま、その底力が爆発しようとしている。
生まれ出た太郎は、暴れ天竜のように芝居のなかで暴れまわるだろう。だが、ただ暴れまわるだけの太郎ではないはずだ。
「貧しい村だった。」というせりふに始まるこの芝居が、「貧しさ」を知らない今の子供たちの胸をどう撃ち抜くか、かたずをのむ思いで開幕を待っている。
(六月二十七日)

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稽古場で考えたこと
ひとつぶはせんつぶになーれ
ふたつぶはまんつぶになーれ
百姓たち(命を生み育てるもの)の切実な祈りの歌から、この「龍の子太郎」の物語は始まります。
笛を吹く少女あやど出会った太郎は、龍となった母をたずねて長い旅に出ます。天狗と相撲をとったり、あやを助けるために黒鬼を退治したり、にわとり長者にだまされて、田おこしから稲刈りまでの米づくりを体験したりしながら旅を続けます。観客である子どもたちは、波乱万丈の行動に、ドキドキしたり、気をもんだり、応援したり、太郎をみつめ、物語の行く末をみとどけようとするでしよう。
だが、子どもたちが見ているものが、もうひとつあります。それは役者−俳優、つまり舞台をつくる人びと、その人たちの生きようです。舞台を縦横に飛び回り、太鼓をたたき、笛を吹き、踊り、歌い、汗をかく俳優たちの姿です。声も、体力も、忍耐力も、感性も、失いかけている現代人(子どもたちも)にとって、舞台できらきら輝いている人たちは、最も人間らしい人たちと言っていい筈です。
では、この人たちは特別な人間なのでしょうか。私の考えはこうです。
本来、歌ったり、しゃべったり、踊ったり、太鼓をたたいたりすることは、普通の人間のすること、してきたことです。ごく、当たり前のことが特別に見えてしまうのが、現代という時代なのかもしれません。

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人間味あふれるたんぽぽ
劇団創立五十周年おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
この記念すべき公演にスタッフの一人として参加できること

 

 

 

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