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日本のチョウ類の衰亡の原因を探るうちに、私は里山や採草地などかつての農業環境周辺の半自然がいかに多くの生物を守ってきたかを知った。里山の自然を愛する多くの人たちの努力により、いまや里山という語は社会の中に広まりつつあるが、残念ながら、その価値についてはまだ社会的にも生物学的にも認知されたとは言えない。
例えば、最近出版された大学教養部向けの生物学の教科書に「都市近郊にみられたありふれた自然が生活構造の変化によって失われるといったノスタルジーが、里山を必要以上に貴重な自然と勘違いさせているように思えてならない」といった記述があった。
里山が生物学的に大切なのは、草原や湿地や陽樹林のような遷移系列の自然に独特の生物が数多く生息しているからであり、都市と原生的自然を隔て自然と人間が共生する緩衝帯として、また移動・分散する生物の回廊、あるいは一時的生息場所として、地域の生物多様性を維持するうえで重要な役割を果たしているからである。里山を失うことは、そこを利用する生物たちには想像以上に大きなダメージになるにちがいない。多種多様な生物たちにとって重要な里山ではあるが、人間社会の中では存続の難しい存在である。
拙著『里山の自然を守る』の読者から「おまえに中山間農業の苦しさが理解できるのか」と厳しい意見をいただいたことがある。里山を未来世代に引き継ぐには、その多面的な価値を社会に対して根気よくアピールし、地域住民のコンセンサスを得る努力を続ける必要があるだろう。

 

 

 

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