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献体40年によせて

 

文部省高等教育局
医学教育課長 寺脇 研

 

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献体四十年にあたり一言ご挨拶申し上げます。
わが国では、社会の高齢化が急速に進展しており、二十一世紀にはこれまでどの国も経験したことのない超高齢化社会を迎えようとしております。すでに疾病構造が急性疾患から慢性疾患へと変化してきており、国民の医療に対するニーズは多様化し,疾病の治療だけでなく、疾病の予防からリハビリテーション、介護までを一貫して考えることが求められております。
また、近年の医学・医療の進歩発展は目覚ましいものがあり、臓器移植、体外受精、遺伝子治療などが可能となり、様々な疾病の克服に貢献しております。しかし,生命倫理の問題、さらには生命の尊厳との調和の問題といった様々な新しい問題が生じたことも事実であり、今後は、先端医療技術の進歩とその制御とのバランスをどう考えるかがますます大きな課題になるのではないかと考えられております。
こうした状況の中で、最近特に、医師と患者との信頼関係の問題、医師の人間性や倫理観の問題が,厳しく指摘されているところであり、医学教育においては、以前にも増して「医の倫理」に関する教育の重要性が叫ばれております。このような「医の倫理」を涵養する教育を支える基礎となるものは、いつの時代にあっても解剖学教育であることは言うまでもありません。医を志した学生は、解剖学実習を通じ、人体の構造を理解するだけでなく、献体された方のご遺体から、命の尊さを学ぶのであり、確固たる倫理観を持った医師を養成するためには解剖学実習が必要不可欠であります。
かつては実習に必要なご遺体が全国的に不足しており、解剖学教育に大きな支障をきたした時代があったと聞いておりますが、近年は献体という行為、そしてそれを支える崇高な精神について、広く国民の間に理解が深まってまいりました。その結果、着実に献体登録者数が増えてきており、現在では多くの大学において、解剖学実習をすべて献体されたご遺体により行えるようになってまいりました。
このように国民の間に理解が深まってまいりましたのは、長年にわたり、全国で献体理念の普及啓蒙活動を続けてこられた関係各位のご尽力と献体登録された方々の尊いお志の賜物であり、改めて、深く敬意を表する次第であります。
最後に、二十一世紀の医学・医療を担う優れた医師の養成のために、今後の献体運動の進展を心からお祈り致しましてご挨拶と致します。

 

 

 

 

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