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ワンポイント 消防職員のための法令用語解説

行政手続きに関する判例

成田新法事件(長高表、平成四年七月一日、大法廷判決)
(一)、運輪大臣は、一九七九年(昭和五四年)二月、成田新法に基づき、反対同盟が所有する「横堀要塞」を、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合」や、「爆発物や火炎びんの製造、保管」に使用してはいけないとの命令を出した。期限は一年で、その後、毎年命令が繰り返され、その後も使用禁止状態が続いている。
反対同盟は、一九七九年(昭和五四年)に五〇〇万円の損害賠償と、命令の取り消しなどを求めて提訴。以後、処分が「更新」される。ことに訴えを追加した。
一審の千葉地裁は、一九八四年(昭和五九年)二月、失効した八三年二月までの処分については、訴えを却下。八四年二月までの処分と損害賠償は、「成田新法は合憲」として請求を棄却した。
二審の東京高裁も、一九八五年(昭和六〇年)一〇月、同様の理由づけで失効した処分の取り消しの訴えについては却下、八六年二月までの処分と損害賠償は棄却したため、反対同盟側が上告した。
(二)、成田新法の制定経緯
新東京国際空港の開港を四日後に控えた一九七八年(昭和五三年)三月二六日、過激派が空港管制塔内に侵入して、約二時間にわたり占拠し、航空管制機器類を破壊する事件が起きた。このため、開港は延期となり、過激派対策が急務の課題として持ち上がった。政府は改めて開港日を五月二〇日と定める一方、出撃拠点とされた空港周辺の反対派の団結小屋を撤去するため、建築基準法や土地収用法、航空法などの適用を検討した。しかし、当時の現行法では、困難との結論になり、特別法制定の必要性が浮上した。
一九七八年(昭和五三年)四月二七日、議員立法で法案提出、法案は、暴力主義的破壊活動者の集合などのために団結小屋を使用することを禁止し、これに違反した場合は、封鎖や除去もできるという内容だった。
一九七八年(昭和五三年)五月一二日、法案が、可決成立。
(三)、最高裁判決の内容
憲法三一条の定める法定手続の保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性を総合較量して決定されるべきものである。
(上告棄却)
(園部裁判官の意見)
行政処分において、不利益処分については法律上、原則として弁明、聴聞等何らかの適正な事前手続の規定を置くことが必要であると考える。
事前手続の内容は、立法政策上の判断に委ねるほかはないといわざるを得ない。行政手続に関する基本法の制定により、適正な事前手続についての的確な一般的準則を明示することは、この意味においても重要なのである。
全消会顧問弁護士・木下健治

 

 

 

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