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高齢化社会と健康・体力

千葉大学教育学部教授廣橋義敬

一はじめに
わが国では、今日世界に類例を見ないスピードで高齢化が進んでいる。そのために高齢層の影響が、否応なしに、政治・経済・社会など、あらゆる面に強く現れてくる。したがって、健やかな逞しい長寿社会の建設が重要な課題になってくるが果たしてその実現が可能であろうか。
高齢社会と言えば、高年期は生産年齢期と異なり、全身の老化が進んでいるため、疾病にかかり易くなるとか、からだの反応性が低くなるとか、一般に暗いイメージをもつ人が多いようである。介護されている高齢者をそのシンボルとして感じさせられるような情報があふれているせいであろう。しかし、NHKテレビ「小朝が参りました」に出演してきた百歳老人の皆さんを思い浮かべると、高齢社会のイメージは明るくなる。
保護を必要とする社会階層として高齢者をとらえるにとどまる後向きの姿勢からは、明るい社会は生まれてこない。高齢者の豊かな経験がもとになっている諸能力、社会を支えることに生きがいを求めるエネルギーなどを社会の貴重な財産として生かす前向きの姿勢が、明るく逞しい長寿社会を生み出す源になろう。
高齢社会を迎えたわが国にあっては、長寿先進国に学びながらも、より発展的に健やかな逞しい長寿社会をつくることは、最も重要な国民的課題になる。高齢層が社会から支えられるよりは、より以上に社会を支える役割を果たしているような長寿社会は、人間にとっての理想社会であろう。その実現に挑戦することは、人類次元での国際貢献になろう。したがって、消防職員にあっても、先に述べた明るく逞しい長寿社会の実現に向けての対策を早急に確立する必要がある。ここでは、そのために参考になる諸事項について筆者らの長年にわたる研究成果を基にして、何らかの示唆になると考えられる事柄を紹介することにする。
二 逞しい長寿社会への挑戦の道
健やかな逞しい長寿社会の実現には、発想の転換と大きな国民的努力が求められるが、そのための主な基本の道には、次にあげるいくつかが挙げられよう。
(一)政治・経済・社会的な道七五歳以上の人が増えるとぼけや寝たきりの老人が激増するという説もあるが、東京都のデータによれば自立能力のある老人の率が時代とともに高くなっていることから、高齢者の増加がイコール援助を必要とする人の増加ではなく、自立能力のある高齢者には活動の場を用意するなど、高齢者が社会(家庭を含む)を支える多くの役割を果たすことのできる社会の仕組みをつくる。また、道路・乗りもの・建物・はきものなどの物的環境の整備をする。
(二)医の道
人間は、高齢者になると、全身の老化が進み、健康を脅かす危険因子が多くなる。また、予備力・回復力が低下し、疲労のあらわれがおそく防御反応・適応力も低下する。その結果、痴ほう症患者・寝たきり老人などの数が増加する。したがって、この傾向に対して、医学・医療の進歩によって減らすように対応する。
(三)環境の保護・育成の道相も変わらぬ核保有国による核実験の実施、多量の化石燃料の消費による酸性雨の増加、フロンガスの多量の使用によるオゾン層の破壊など、自然的及び社会的な環境の地球的規模での悪化をくい止め、よい生活環境を積極的に育てる。
(四)保健の道

 

 

 

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