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ワンポイント消防職員のための法令用語解説

相続人の処分権の制限、遺留分
一、相続人の処分権の制限
遺言執行者が選任されると、相続人は相続財産を管理する権利を失い、遺言執行者だけが遺産を管理・処分する権利を取得する。このため遺言執行者がある場合は、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(民法第一〇一三条)。
相続人の禁止行為は遺言により異なるが、特定物遺贈の場合には、遺贈の目的となっている家屋を第三者に譲渡したり、この家屋に、抵当権を設定したりする行為、また相続財産である家屋が賃貸されている場合にその賃料を受領する行為がこれに該当し、これらの行為は無効である。
不特定物または一定額の金銭を遺贈する場合には、遺言執行者は目的物が相続財産の中にないときは、相続財産を換価してこれを調達しなければならないので、相続人は相続財産を処分できないとされている。
二、復委任
遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。但し、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。遺言執行者が前項の但書きによって第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、その選任・監督について責任を負う(民法第一〇〇六条)。
三、遺言執行者の報酬
家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、その遺言に従う。遺言執行者が報酬を受ける場合には、委任を受けた者が報酬を受領する場合の規定が適用される(民法第一〇一八条)。
四、遺留分
遺留分とは、相続人が相続により法律上取得することができる、被相続人の相続財産の)正の割合である。生前贈与または遺贈によっても処分ができない性質のものである。また、この遺留分を有する者を遺留分権利者といい、遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人である。すなわち、被相続人の直系尊属、直系卑族(子の子である代襲相続人)、配偶者である(民法第一〇二八条)。
五、遺留分の放棄
遺留分権利者は、相続の開始前に、遺留分を放棄する場合は家庭裁判所の許可を得なければならない(民法第一〇四三条第一項)。家庭裁判所の許可を必要としたのは、親が子に遺留分の放棄を強要する、または夫が妻に遺留分の放棄を強制する、などの事態を回避させるためである。相続開始後の遺留分放棄は、自由にできるが家庭裁判所の許可が必要であるとされている。
共同相続人の一人が遺留分の放棄をした場合、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない(同条第二項)。遺留分の放棄があると、他の相続人の遺留分が増加するのではなく、ただ被相続人が自由に処分できる財産が増えるだけである。
全消会頭問弁護士 木下健治

 

 

 

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