日本財団 図書館


診断されたHAM患者とHTLV-Iキャリア1名が確認されているにすぎなかった。本症例を経験した後は、外来患者でLDH高値の方、リンパ節が腫脹している方などのHTLV-Iキャリアを疑われる症例に対して集中的に抗HTLV-I抗体を検査したところ約13名に1人の確率でHTLV-Iキャリアが発見された。

ところで、これまで島内で大量に緊急輸血を必要とする症例に遭遇したときは、主に病院職員や役場職員等から供血者を大至急募り、血液型(ABO式、Rh式)と交差適合試験のみ施行した後、全血輸血をしていた。菅原らの報告によれば1985年10月から1993年3月までに当院では46例に対して52回緊急輸血が施行されたとされている。したがって、年平均7回の緊急輸血ではあるが、この緊急輸血によるHTLV-IやHCV感染者の2次感染を予防するために、我々は早急に緊急輸血体制を改善することにした。以下その改善点を述べる。

第1に病院職員と役場職員に詳しい説明をして、了解を得られた方から抗HTLV-I抗体、HCV抗体、Hbs抗原検査を実施する。結果については医師と検査技師でデーターを管理し外部に漏れないようにする。もちろん、陽性者は、供血者リストからは除かれることになる。第2に、抗HTLV-I抗体やHCV抗体を外注以外で当院でも簡便迅速に測定できる試薬を採用した。第3に島内の抗HTLV-I抗体やHCV抗体陽性者のリストを当院の医師が保管する。第4に外来通院している患者については、LDH高値やリンパ節腫脹の認められる方、原因不明の発熱をしている方、発疹が持続している方、輸血歴のある方、針治療歴のある方、家族にキャリアがいる方は適宜、抗HTLV-I抗体検査を行う。

その結果については必要に応じてお話しする。妊婦に関しては、全員承諾を得てHTLV-I抗体とHCV抗体等のウイルス検査を実施する。その他、輸血に際しては白血球除去フィルターを必ず使用することとし、また、当院のみならず島内の各医療機関にも輸血指導を行うこととした。HIVについては、日本国内での感染者の増加にしたがい将来的には検査の対象になるかもしれない。
現在この緊急輸血体制を開始したところであり、今後その効果などについて追跡していきたい。

IV.結語

以上、島内の緊急輸血体制を改善させるきっかけになった成人丁細胞白血病(adultT-cellleuke-mia:ATL)リンパ腫型の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告した。

V.参考文献

1)T.Bリンパ系腫瘍研究グループ:第5次成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)実態調査の報告−第4次実態調査の評価。癌の臨床。381405-416.1992.

2)Lymphomastudy Group(1984-1987):共同研究による成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の臨床研究1予後因子解析、臨床病型の診断基準。臨床病態並びに治療成績の実態。癌の臨床、37(3):333-349.1991.

3)飛内賢正、下山正徳1ATLの治療。レトロウイルス疾患ATLとAIDSのすべて。病理と臨床11。(臨時増刊号):147-162、文光堂、1993.

4)山ロ一成、高月清:ATLの定義、レトロウイルス疾患ATLとAIDSのすべて。病理と臨床11。(臨時増刊号):75-79、文光堂、1993.

5)岡本尚:ATLの多段階発癌モデル。レトロウイルス疾患ATLとAmSのすべて。病理と臨床11。(臨時増刊号):115-119、文光堂、1993.

6)田島和雄1日本におけるHTLV-Iキャリア分布の特徴。医学のあゆみ、165(1):60−65、医歯薬出版株式会社、1993.

7)菅原斉:離島中核病院での緊急輸血の現状と今後の課題。月刊地域医学、8(4):186-90.1994.

(旭川医科大学 〒078 北海道旭川市西神楽4線5号)
(市立札幌病院 〒060 北海道札幌市中央区北11条西13丁目)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION