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症例1
患者:64歳、男性、原発性肝癌、肝部下大静脈狭窄例。
1990年1月より当院内科にて慢性肝炎で経過観察されていた。1991年2月、原発性肝癌のため他院にて肝部分切除術施行。1993年4月に再発が認められたため、数回の肝動脈塞栓術(TAE)が施行されていた。1994年6月、著明な黄疸(総ビリルビン:24.7mg/dl)にて当院に入院した。1994年4月には黄疸は認められず、CTでもリピオドールの集積がある程度認められた(図1a)。しかし入院時にはリピオドールの集積は一部となり周囲の低吸収域は拡がり、肝内胆管の拡張も伴っていた(図1b)。

減黄を目的に内視鏡的に2本の胆道ドレナージチューブを留置したが、総ビリルビン値は10mg/dl程度にしか下がらず、肝癌自体に対する治療の適応はないと考えられた。この後、両下腿の浮腫と腹水の増加を認め、腹満感と倦怠感を強く訴えた。利尿薬や蛋白製剤の使用にもかかわらず症状の改善は認められなかった。下大静脈の造影では、肝部下大静脈の狭窄と側副血行路の描出が確認された(図2a)。

このため、下大静脈の拡張およびその保持目的に、WilliamCook社製Z-stent(直径3cm、長さ2.5cm、3連)の留置を行った。右大腿静脈より12Frのシースを挿入し、シース内にEMSを装着、これをプッシャーにて押し進め位置を確認し留置した。また、EMSが当初の留置予定位置より頭側に留置されたため、逸脱を防止する目的で同サイズのものを尾側にStentin Stentのかたちで留置した(図2b)。留置後腹水の減少を認め、下腿の浮腫は消失した(図3a,b)。EMS留置3週間後に死亡するまで、下腿の浮腫の再出現や腹水の増加を認めなかった。

症例2
患者:79歳、男性、食道癌、肝転移、肺転移例。
肝転移、肺転移を伴うImの2型食道癌のため、1994年7月から他院にて化学療法および放射線療法力嚇行されていた。1995年1月に帰島したが、同月食欲不振にて当院入院となった。入院後嚥下困難が徐々に進行し、かろうじて飲水が可能で、造影でも狭窄は高度となった(図4)。このため狭窄食道の拡張目的にEMSを留置することにした。EMSは症例1で用いたものと同一のサイズのものに、全周をGore-Texにて被覆したものを用いた(図5)。留置は透視と内視鏡の併用下に行った。位置の確認をしガイドワイヤーを挿入後、20Frのイントロデューサーを食道内に挿入し内筒を抜去。18Frシースの外筒の先端にあらかじめEMSを装着し、20Frシース内に挿入。留置予定部位にEMSを進め20Frシースを引く。18Frシースの内筒でEMSを固定した後18Frシースを抜き去り、EMS留置を完了した(図6)。留置後2日間ほどは胸部の不快感を訴えたものの、食物摂取が可能となり、造影および内視鏡像でも明らかな改善が認められた(図7,8)。2カ月後に死亡するまで全粥食の摂取が可能であった。

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