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医療におけるQOLの国際比較―ことに日本と米国について*1

廣瀬輝夫*2

元ニューヨーク医科大学臨床外科教授

 

QOLへの医療の貢献

世界の各国国民のQOLの向上のためには、医療が貢献している部分が多いことは当然である。この半世紀に先進国の平均寿命は50歳代から75歳以上になり、最近25年間には70歳から5年以上も延長している。感染症予防および治療の発達が前半25年間に大いに寄与したが、後半の25年は乳児死亡率の減少で1万人に25人台から6人前後へと改良されている。
しかし、発展途上国の代表であるインドネシアは60歳で、貧窮国のザイールの平均寿命はいまだ50歳、先進国との中間と見られるロシアは68歳である。したがって、世界全体の平均を見ると25年前の55歳から62歳とわずかに改善を見たにすぎない。乳児死亡率も出生1,000人に対してザイールでは113人、インドネシアでは55人と、近代医療の普及しないところではいまだに高率である。日本は世界で最も長寿国で、また乳児死亡率が最低であり、米国に比較してもはるかにすぐれている(表1)。

 

各国の医療状況

近代医療の施行率を計測するのに用いられるものとしては前述の平均寿命と乳児死亡率のほか、医療費支出、医師普及率がある(表1)。いかに低額で十分な医療を国民に提供できるか(医療費対GNP比)が重要で、NHS(ナショナルヘルスサービス=国営医療)を施行しているイギリスが最もよいが、制限医療の傾向が強い。日本は米国の14%の半分の比率で米国に劣らない医療を施行している点ですぐれているが、平均国民所得が米国より高いので、1人当たりの医療費は5分の3くらいになる。また、医師の人口10万人に対する比率は米国のほうが1倍半であるので、ハイテク医療施行度と医師および入院費が高率のために医療支出が多いと思われる。
ロシアはフランスと同様、比率は9%前後で高いが、実質の医療費は平均国民所得が日本の半分以下のため、日本の3分の1である。医師の比率は米国より多いが、技術レベルが低い。
インドネシアはわずか2%しか支出できないため、医療費にすると年間20ドル前後で、大半は前近代的な医療を受けており、民間医療に頼っている。
ザイールでは宗教的また人道的慈善医療が施行

 

*1 Medical Care and Quality of Life,an international comparison,chiefly between Japan and the USA
*2 Teruo Hirose,M.D.,Ph.D.

 

 

 

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