
はじめに
日本における”QOL”の歴史と現状*
(財)ライフ プランニング センター理事長 日野原重明
今回の国際セミナーに外国からお招きした4人の専門家に講演していただく前に、日本の医療界におけるQOLの歴史と現状について述べたいと思います。
産業革命からローマクラブ『成長の限界』
病む人のQOLについては洋の東西を問わず、いとおしみの心をもつ医師によっては、古くから大切にされてきたものと思います。
しかし、日本ではこの考え方が一般社会の人々や政府や医療人により意識的に問題にされるようになったのは、西欧に比べると遅かったと言わざるをえないでしょう。
QOLの発想は、1960年代にまず米国とスウェーデンにおいて起こりました。第2次世界大戦後のGNPの急成長による工業化と生産力の増大は多くの先進国に目立ったものでしたが、文明を“いかに多く”ではなく、“いかに良く”するかという見直しがQOLの側からなされるべきであるとの意見がBaver,R.A.などにより叫ばれました。
1968年にイタリアで結成されたローマクラブは、マサチューセッツ工科大学のチームの援助で『成長の限界』1)という報告書を出し、人間のQOLを侵す文明の過度な進歩にブレーキをかけたのです。この報告書は、人類の前途に横たわる文明によって起こる危機の性格を大胆に予測したものでした。戦後のめまぐるしい経済成長や人口増加がこれからも続くとすれば、それは地球の有限な資源や環境の限界を超えて、人類に破壊的な結果をもたらすと警告し、安定均衡状態の社会に早く移行すべきことが続くローマクラブの会議で提案され、近代人に根本的な価値観の転換を示唆したのであります。
医療界へのQOLの導入
このような目覚めが産業界に1960年代に起こったのに対し、医学界ではそのとりあげ方はホスピス運動にかかわる少数のグループの間にのみ限られている状況でした。
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