はちっともそうではなかったのです。
「いままでは、小さな和紙に小手先で作品を書き、人間性まですっかり縮こまっていた。ところがいまは、紙を大地に置き換え、全身を筆にして、ネパールの人たちと一緒に思いっきり作品づくりに取り組んでいるんだ」と、彼はいいます。
地球が紙。自分が筆。そして、天が出来栄えを見守っていてくれる。いまや、彼の生きかたそれ自体が彼の作品(ライフワーク)になっていたのです。
“ボランティア”という言葉の本当の意味は、小さな字引きの中に見出すものではなく、“人生”という辞書に、“生きざま”という文字で、自ら書き記していくものなのかもしれません。
「よろこんで……」
そんな生きざまの足跡を歴史に残し、17歳でこの世を去ったある女性のことを、最後にご紹介して筆を擱こうと思います。
時は15世紀のフランス。100年戦争末期で、国土の大部分がイギリスの支配下に落ち、国家存亡の危機を迎えていました。
そのころ、フランス東部、ドンレミ村の農民の娘、ジャンヌは天使の声を聞きます。その声は、王子のところにいって、英国軍を追い払い、フランス王国を回復するように伝えよと、彼女を促します。いわれるとおりに申し出ても、門前払いどころか相手にもしてもらえません。性懲りもなく、しつこく迫るこの娘に手を焼き、とうとう話だけは聞いてやることに。それがきっかけとなり、17歳のジャンヌのいうとおりにしてみると、奇跡の連勝。つぎつぎと敵軍を打ち破り、ついに祖国は国土を回復し、いまや王子は戴冠してフランス国王となります。
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