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それを通じて、面白いことが起こっているのです。さっきまで見知らぬ他人、第三者だったその人が、いま、自分の隣人になっている。裏返していえば、自分がその人の隣人になっている。赤の他人同士が「あなた−わたし」と二人称で呼びあう人格的関係になった、ということです。そこにアガペーの創造性があります。

 

アガペーとボランティアのこころ

三つの愛のパターンを見てきましたが、これは、愛を三つの種類に分類して、アガペーは立派だが、エロースやフィリアは自己中心でだめだ、というのではありません。
優劣や比較の問題ではなく、むしろこの三つは相互に関係しあい、なかでもアガペーがすべての愛の基本になっているのです。縁の下の力持ち、分数でいえば、分母ということです。アガペーが分母で、エロースやフィリアは分子というわけです。アガペーに支えられた上でこそ、エロースやフィリアが本来の美しさを発揮し、その愛で結ばれたお互いを輝かせ、豊かなものにしてくれるのです。
分母のアガペーから分離したエロースは、他者を自分の目的達成の対象物としてしか見なくなります。その結果、“エロ”という言葉で表されるような、相手の人間性を踏みにじる事態すら引き起こしてしまうのです。それが不可能だとわかると、愛が一転して憎しみに変わり、いままでいちばん近くにいたかった人が、世界でいちばん憎い人に変わってしまうのです。そして結局は、相手だけでなく、自分自身をも傷つけ、非人間的な疎外状況に追い込んでしまいます。
これはフィリアにしても、似たようなことがいえます・いった

 

 

 

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