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それによって相手が生かされ、自分自身も新しく変えられていく創造的な愛、それがアガペーといえます。
説明がちょっと抽象的になってしまいました。ここで、いくつかの具体例でアガペーを見てみましょう。
コルベ神父は、長いこと日本にもおられたことのある、ポーランド人のカトリック神父です。第二次大戦中、アウシュビッツの収容所に捕らわれていましたが、共にいたユダヤ人男性の身代わりとなり、飢餓室で生涯を閉じました。その男性ととくに親しかったわけではありませんが、いま、目の前で一人のユダヤ人が飢餓室に送り込まれようとしているとき、自分に唯一できることは、と判断してみずから進んで身代わりになったのでした。アガペーの愛に生きたコルベ神父にとって、それは素直な気持ちの発露であり、決して英雄的行動のつもりで行ったことではなかったのでしょう。
カルカッタのマザー・テレサは、路上で、虫ケラのように無視され、息絶えていく人に出会い、引き取り、かたわらにいて最期を看とります。
その人が彼女の知人だからとか、そうしておけばあとでいいことがあるから、というわけではありません。いやむしろ、当初、瀕死の貧しい病人を伴って金持ちの友人を訪ねたときには、助けを得られるどころか、文字どおり門前払いをくわされ途方に暮れたりしているのです。
だったら、なにを好んでそんなことをするのか。ただ、そこでその人に出会い、その人のためになにかできることがある。少なくとも、その人と共にいて、全人的な関わりのうちに最期を看とることができる。そう気づいたからです。
そうしたマザー・テレサの姿から、わたしたちはアガペーの輝

 

 

 

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