エロースとは
愛を表す三つのギリシア語の中で、現代の日本人にいちばん知られているのがエロースではないでしょうか。“エロ”と省略されると口に出すのもはばかられますが、古典時代のギリシアではもっとも理想的で、人間的に美しい愛がエロースだったそうで、それをヘンな意味でしか使わなくなってしまった現代人の側に問題がありそうです。
古代ギリシア人の意味する“エロース”を端的に垣間見ることができるのが、プラトンの『饗宴』という著作です。
そのなかに、ギリシアの神々が人間を創造したときの話が出てきます。それによると、最初につくられた人間たちは、からだはボールのように丸く、手が4本、足が4本。急ぐときには、その計8本の手足を突っ張って、サーカスの道化がトンボをきるように、目にもとまらぬ速さで転がり回った、と書いてあります。
また、頭には目が4つ、耳も4つ、口が2つあって、自分のまわりで起こっていることは、360度一切逃しません。しかも好奇心が旺盛で、見聞きしたことは2つの口で同時に2人に伝えるので、ウワサはあっというまに全世界に広がります。
それだけでも騒々しいのに、その人間たちは神々のプライバシーにまで首をつっこんできます。これには神様たちもほとほと参り、とうとう人間を縦に真つ二つに裂いてしまいました。
その結果、人間は目と耳が2つ、口は1つ、2本足でヨタヨタ歩きまわる、なんとも情けない存在になってしまったということです。
半身にされてしまった人間たちのショックはたいへんなもので、それ以来、自分の片割れを捜しまわるのに忙しく、やっとのこと
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