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悲しみ、悩み、苦しみを静かに聞いてあげること、それがターミナル・ケアの場ではナースやボランティアの大事な役割の一つでもあるのです。医師が聞けなかったことをナースやボランティアが聞くことによって、はじめて患者の気持ちは解き放たれるのです。
医師と患者の間にはどうしても上下の隔たりがあります。そこにナースが介在し、同じ高さで視線を交わして静かに患者さんの言葉に耳を傾ければ、患者さんは過去の思い山やいまの心境、不安、苦しみ、そして医師に言えなかったことを話し出すのです。患者さんは死を前にして自分の過去を顧みて、自分が辿ってきた人生をレビューするのです。それに耳を傾けることによって、患者さんとよいコミュニケーションが築かれ、患者さんのこころはいくらかでもリラックスするでしょう。客観的に患者さんを観察するのに加え、患者さんのこころの中に入り込み、病状とともに心境も聞き出す。これこそサイエンスにアートを加えた真の看護であるといえましょう。“がんを病むあなた”という人格体とこころを割って話ができれば、それはその患者ばかりか、医療提供者にも貴い人生体験となるでしょう。患者に手で触れると同時にこころでも触れる、それこそがターミナル・ケアの真髄といえるものなのではないでしょうか。

 

不適切な処置はしない

セント・クリストファース・ホスピスを創設したシシリー・ソンダース医師は次のように語っています。
「ターミナルケアとは、まず痛みその他の症状からくる苦痛を和らげてあげる。痛みや便秘や不眠をとり去り、よけいな検

 

 

 

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