日本財団 図書館


 

きたいといつも願っているというのです。人間は自分だけの生を願うのでなく、周囲の生きものにいとおしみの目を注ぎ、生きものの殺生を控えるべきだという考えから、シュワイツァーは昆虫一匹でも大切にして、殺さないようにしたというのです。シュワイツァーは昆虫が死ぬことにも心の痛みを感じるいとおしみの心いっぱいの医師だったのです。アフリカの赤道直下にあるガボンのランパレネに病院を設立し、現地の人たちを救済するために39歳から先の全生涯をその地で送りました。

 

サイエンスとアート

さて、私たちがターミナル・ケアをするときには何が必要かといえば、それはサイエンスとアートであるといいたいのです。サイエンスという言葉は、シェンディア(scientia)というラテン語からきています。シェンディアには“知恵”という意味もあります。一方、アートのほうはアルス(ars)という言葉が語源となっており、“組み合わせる”“折り合いをつける”という意味です。私は医学や看護を説明するさいには、いつも三角形で説明します。つまり、科学で代表される知識と、テクノロジーで裏づけられた技術、この2つを人間に適用させる技(わざ)が必要だというのですが、この技を私はアートと呼んでいます。アート(技)というのは、患者や家族へのヒューマンなタッチ、思いやりのこころをもつ技のことです。英語ではcompassionate、つまり共感するというこころで触れる、その技こそがアートというものなのです。このアートは音楽、絵画、彫刻などすべての芸術に共通するものです。たとえば音楽はアートの中のアートともいえますが、単なる技術だけが尊重されるわけではありません。まず音楽

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION