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ためにあらゆるエネルギーを注ぎ込む。そのために自分の身をととのえるという意味でもあります。
井深さんは慎み深い方でした。人に対する謙虚さを私どもは持っていなければならないだろうと思います。

 

豊かな感性こそ夢を生む

 

最後にもう一つ。それは感性という問題です。「氷が溶けたらどうなる?」と子供に聞くと、子供は「水になる」と答えます。正解です。いまの子供は「氷が溶けたら水になる」という科学的知識で頭がいっぱいです。北国で同じ質問をすると、ときに違う答えが返ってきます。氷が溶けたら「春がくる」。何と夢のある答えでしょうか。厳しい冬。そこに明るい、暖かい春を待望する気持ちが滲み出てまいります。「春がくる」これが私は感性だと思います。
私はいまでもときどき月を眺めますが、月を眺めながら「ああ、ウサギが餅をついてるな」といまでも思っているのです。子供のときに、お月様でウサギが餅をついている。それはめすのウサギなので、地上でおすのウサギが踊るんだという話を聞かされて、いまでも月を見ると、ウサギの餅つきを連想するわけです。しかし、いまの人は、月を見れば「人間が到達する物体の一つ」にすぎないわけです。そこにはロマンがないのではないでしょうか。
私どもにとって必要なのは夢であります。小倉遊亀という101歳になるたいへん有名な女流画家がおられます。この方は「葉っぱを見て美しいと思ったら描きなさい。その1枚の描いている葉っぱに宇宙が見えてくる」と言われるのです。
マザー・テレサが、あなたが死にゆく人をみとっても、せいぜい何千人か何万人にすぎないでしょう。世界には何億という困っ

 

 

 

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