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素は労働力です。働く人がいなければ工業は成立しません。

 

高度産業社会の価値観

 

日本の工業はだれでもいいとは言ったことがないのです。経済成長期に日本の工業が要求した要件は、第1は若くて力があって長もちする人です。第2は教育を受けた人。第3は安く使える人。この要件に該当するのが若年労働者という言葉です。ここに若い人がたくさんおられますが、皆さんくらいの方を若年労働者とは言わなかったのです。皆さんですらもちょっととうが立っておられるのです。若年労働者というのは新卒の中学生を言ったのです。中学を出たばかりですから、これから長いこと働いてくれます。
私は戦争中に造船所で働きました。不勉強にして青写真が読めないのです。いまなお私は青写真が読めません。でも、いま日本の工場で働いている人は、みんな青写真を読むのです。教育程度が高まりました。そして中学を出たばかりですから低賃金ですみます。先を争ってこの若年労働者を求めたのです。ところが工業圏である大都市圏でその若年労働者が見当たらないのです。高校進学率が急激に高まったからなのです。戦争前は、義務教育の小学校を終えて中学に進学した人は20%にも達しませんでした。今日、中学から高校への進学率は96%、ほとんど全員です。進学率は経済成長とともに向上し、そしてそれは大都市圏から始まったので、工業地帯のお膝元に若年労働者が見当たらない。しかたなしに地方へ地方へと若い人を捜しに行って、集団就職という形で工業圏に連れてきたのです。
このころ中学の新卒を何と言ったかというと「金の卵、月の石、ダイヤモンド」と、貴重品のように扱ったのです。なぜなら、一人の中学の卒業生に求人が平均20件あったからです。

 

 

 

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