奨励賞
複合型サステーナブル・ツーリズムの形成に伴う観光振興
朝水宗彦
要約
地球サミット以降、観光産業において、持続可能型の観光、つまりサステーナブル・ツーリズムが注目を浴びている。サステーナブル・ツーリズムとは、長期間持続して経済的な利潤を得ることができるタイプの観光形態である。中でも自然に害を及ぼすインパクトが少ないエコツーリズムが代表的である。サステーナブル・ツーリズムに力を入れている国にはコスタリカやカナダなどが挙げられるが、本稿ではオーストラリアの観光形態の変遷を例に、この国におけるサステーナブル・ツーリズムの成り立ちとその重要性について述べる。
オーストラリアにおけるサステーナブル・ツーリズムの解釈は多義的である。この国の場合、サステーナブル・ツーリズムは必ずしもエコツーリズムを意味しない。それどころかエコツーリズムでさえも上記のように自然に害の少ない観光のみを指しているのではない。時には地元コミュニティの活性化やエスニック・ツーリズムの要素さえ含まれているのである。さらに、シドニー・オリンピックめようなイベントにも複合的なサステーナブル・ツーリズムのコンセプトが生かされている。
ただし、オーストラリアの観光形態は時代によって大きく変化してきた。1990年代になると、コンサベーション型の観光開発が主流になりつつあるが、1970・80年代には外資系企業や企業家移民の参入による大規模なリゾート開発が行われていた。ここで、観光形態を変化させる際に一つのジレンマが生じる。オーストラリアでは環境問題に配慮しているとはいえ、観光を国の基幹産業として成り立たせるためにはそれ相応の営利を追求しなければならない。このジレンマの解決のため、環境の保全と長期的な経済成長を一石二鳥で得られるサステーナブル・ツーリズムが注目されるようになった。
サステーナブル・ツーリズムの複合化プロセスでは原住民のアボリジニが重要な役割を果たした。例えば、アボリジニの素朴な料理であるブッシュ・タッカー(bush tucker)を食べに行くツアーに参加する場合、料理の食材集めから、調理、食事までの全てのプロセスを体験する。つまり、料理を通じてアボリジニの文化を学ぶだけでなく、彼らが生活している自然環境も総合的に学べるのである。このようなアボリジニ観光はオーストラリアのサステーナブル・ツーリズムの原型であると考えられる。
旧来の観光は観光業者と消費者のみを視野に入れたものであったと思われる。しかし、観光業者と自然保護団体のように異なる種類の団体の協力によってエコツーリズムのような新たな観光形態が広まった。オーストラリアにおける協力体制はさらに進化し、地域社会の活性化を含めたより総合的な観光形態に発展していった。つまり、オーストラリアで見られるような多くの人々に利益をもたらす複合的な観光形態は、政府と民間、そして様々な団体の協力体制があって初めて形成されたと言えるのである。
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